へ夕利あ

□暗闇のなかで
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...尾けられてると思う





誰か、





知らない男に。



暗闇のなかで




 長く泊まり込みでやっていた研究が一段落ついて、久しぶりに通る帰り道

 鍵を却す時に見た時計は22:21を差していたから、もう30分を巡っているだろう

 流石に外は涼しいなとか考えながら歩いていたら、後ろから、石を蹴ったような音が聞こえて、俺以外にも人がいたのかと知る

 ここは街灯のない裏道で、こんな時間に人がいるなんて、とか思ったけど、自分も人の事は言えないかと苦笑した





 だけどその内、おかしい事に気付く





 今俺が歩いてるこの道は一本道で、さっき通り過ぎた曲がり角以外、他所に繋がる道はなく、そろそろ借りてるアパート管理人の私道になる

 その先にはアパートと、その向こうにある大通りに通じる小路(地元の俺でも住むまで知らなかったような細道)だけ

 アパートの奴等は皆顔見知りだし、こんな時間に出歩くようなのはいない





 少し、怖くなった俺は、鞄から携帯を取り出して、朝にかかってきた電話に、かける





ひとつ...ふたつ...



「どうした、アーサー」



 その声を聴いた瞬間、泣きそうになった

 生まれたときから傍にいて、こいつが専門学校に行ったほんの2年以外聞かない事はなかった、いつも安心させてくれる声...



「アーサー?」



 応えない俺に、フランシスが声をかけてくる





 ...気付かれては、いけない





「なんだよ髭、一回呼んだの忘れたか?」
「いや、髭じゃないからね、お兄さん。お前がなかなか喋んないからでしょ」
「せっかちな髭だな」



 もう一度、髭じゃないから!!とお決まりの科白が入る

 髭ない方が綺麗なんだけどな...って違うっ



「で?どうかしたの?」
「別に、お前が暇だろうから電話してやっただけだ」
「...坊っちゃん、もしそれで俺が何か作ってたらどうする気よ」
「...家帰る前に、お前ん家行く」



 昔読んだ本に、誰かと連絡を取る振りをすると、不審者は逃げますって書いてあったのに、気配はまだ消えない
 だから寧ろ、フランシスん家行けた方が...助かる



「ちょっと待ってアーサー。お前、今どこにいんの?」
「道の上」

ついでに帰り道とか付け加える

「へぇ、家に帰る前に俺の声が聴きたかった?」
「......うるせぇな」



 甚だしく不本意だけど事実だから、一言言うに留めた

電話の向こうから扉が動く音が聞こえた気がするけど、フランシスはこんな時間に外に出るような物好きじゃないから、聞き違いだろう



「おや坊っちゃん、珍しく素直」



 相変わらずのによによ声に安心して、こんな時だけど頬が緩む



「ニヤついた声出してんじゃねーよ、おっさん」
「おっさん!?おっさんじゃないからっお兄さんだから!!」



 アパートの前にひとつだけある街灯の光が見えて、俺は少し、足を早める



「おっさんもお兄さんも変わんねぇだろ」



 俺と同じように、動きが早くなった気配を気にしないように
 精一杯いつも通りの声を出しながら



「お、ま、院に行って頭悪くなったんじゃない!?」
「ふざけんなっ院でも俺は優秀だっつーのっ」
「だったらおっさんとお兄さん一緒にしないでよ!!」
「どっちにしろお前って事に変わりはねぇんだろ」
「え、なにそれ、口説き文句?」
「なに頭沸いた事抜かして「おかえり」」




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