へ夕利あ
□暗闇のなかで
1ページ/3ページ
...尾けられてると思う
誰か、
知らない男に。
暗闇のなかで
長く泊まり込みでやっていた研究が一段落ついて、久しぶりに通る帰り道
鍵を却す時に見た時計は22:21を差していたから、もう30分を巡っているだろう
流石に外は涼しいなとか考えながら歩いていたら、後ろから、石を蹴ったような音が聞こえて、俺以外にも人がいたのかと知る
ここは街灯のない裏道で、こんな時間に人がいるなんて、とか思ったけど、自分も人の事は言えないかと苦笑した
だけどその内、おかしい事に気付く
今俺が歩いてるこの道は一本道で、さっき通り過ぎた曲がり角以外、他所に繋がる道はなく、そろそろ借りてるアパート管理人の私道になる
その先にはアパートと、その向こうにある大通りに通じる小路(地元の俺でも住むまで知らなかったような細道)だけ
アパートの奴等は皆顔見知りだし、こんな時間に出歩くようなのはいない
少し、怖くなった俺は、鞄から携帯を取り出して、朝にかかってきた電話に、かける
ひとつ...ふたつ...
「どうした、アーサー」
その声を聴いた瞬間、泣きそうになった
生まれたときから傍にいて、こいつが専門学校に行ったほんの2年以外聞かない事はなかった、いつも安心させてくれる声...
「アーサー?」
応えない俺に、フランシスが声をかけてくる
...気付かれては、いけない
「なんだよ髭、一回呼んだの忘れたか?」
「いや、髭じゃないからね、お兄さん。お前がなかなか喋んないからでしょ」
「せっかちな髭だな」
もう一度、髭じゃないから!!とお決まりの科白が入る
髭ない方が綺麗なんだけどな...って違うっ
「で?どうかしたの?」
「別に、お前が暇だろうから電話してやっただけだ」
「...坊っちゃん、もしそれで俺が何か作ってたらどうする気よ」
「...家帰る前に、お前ん家行く」
昔読んだ本に、誰かと連絡を取る振りをすると、不審者は逃げますって書いてあったのに、気配はまだ消えない
だから寧ろ、フランシスん家行けた方が...助かる
「ちょっと待ってアーサー。お前、今どこにいんの?」
「道の上」
ついでに帰り道とか付け加える
「へぇ、家に帰る前に俺の声が聴きたかった?」
「......うるせぇな」
甚だしく不本意だけど事実だから、一言言うに留めた
電話の向こうから扉が動く音が聞こえた気がするけど、フランシスはこんな時間に外に出るような物好きじゃないから、聞き違いだろう
「おや坊っちゃん、珍しく素直」
相変わらずのによによ声に安心して、こんな時だけど頬が緩む
「ニヤついた声出してんじゃねーよ、おっさん」
「おっさん!?おっさんじゃないからっお兄さんだから!!」
アパートの前にひとつだけある街灯の光が見えて、俺は少し、足を早める
「おっさんもお兄さんも変わんねぇだろ」
俺と同じように、動きが早くなった気配を気にしないように
精一杯いつも通りの声を出しながら
「お、ま、院に行って頭悪くなったんじゃない!?」
「ふざけんなっ院でも俺は優秀だっつーのっ」
「だったらおっさんとお兄さん一緒にしないでよ!!」
「どっちにしろお前って事に変わりはねぇんだろ」
「え、なにそれ、口説き文句?」
「なに頭沸いた事抜かして「おかえり」」
*