Q.E.D〜なんちゃって劇場〜
□バカップルのケンカ
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「だからぁ、それじゃセンスが無いって言ってんじゃん」
「この場合、センス云々の問題では無いと思いますけど」
「何言ってんのよ?
一生を左右する事なのよ?」
「いや、だからこそですね…」
―――昼休み。
悪天候の為、珍しく教室の片隅で昼食を取っていた、燈馬と可奈。
当初は、可奈があれこれ話しているのに、燈馬が相槌を打っていたのだが、突然、言い争いが始まった。
*******
「――ねえねえ、あれ、どうしたの?」
友人からの問いかけに、二人の近くでお弁当を食べていた、梅宮と香坂が「ああ…」と肩を竦める。
「何だか揉めてるみたいじゃない?」
「子供の名前の事で揉めてるのよ」
「へ?」
「正確には、『将来子供に付ける名前の漢字をどっちにするか』って話、かな」
「何、それ?」
「何がきっかけだったのか忘れちゃったけど、可奈が『もしも将来結婚して、女の子が生まれたら、そらって名前を付けたいな』って言い出したの」
「うん…?」
「そしたら、燈馬君も『可愛い名前ですね』って」
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「でしょう?
でね、漢字は『空』にするって決めてるんだ♪」
満面の笑顔で答える可奈に、想が言った一言で、それまでの楽し気な雰囲気が一変する。
「それじゃ、ちょっと在り来たり過ぎませんか?」
「どういう意味よ?」
「ですから、せっかく『そら』っていう名前にするんだったら、『空』ではなくて『宇宙』の『宙』の方が良くないですか?」
「女の子の名前なんだよ?
『宙』じゃ、男の子みたいじゃん」
「そんな事ないです。
だいたい、水原さんは日頃から、男女差別がどうとか言ってる割に、変な所で拘るんですね?」
「拘るのは当たり前だよ!名前は一生の問題なんだから!」
「だったら、やっぱり、在り来たりな字では無い方が良いじゃありませんか」
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「で、今に至るって訳…」
「下らないでしょう?」
「確かに」
当の二人はそんな呆れ返った視線に気付かずに、未だに言い争いを続けている。
「ああ、もう!ほんっとに頑固ね!」
「水原さんこそ」
「ていうか、燈馬君には関係無いじゃん。
私の子供の名前なんだからね?」
「そ、それはそうですが…」
―――二人はまだ知らない。
数年後、結婚して、可愛らしい女の子に恵まれる事を。
そして、当然の如く、今日と同じ内容のやり取りをするが、結局は可奈が勝ち『空』と名付けられるという事を。
END.