駄文

□恋人宣言
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好きな相手を名前で呼びたい。



そんな簡単な願いが、どうして叶わないんだろう?




相手は職場の同僚であり、部下。



毎日のように顔を合わせ、一緒に行動する事も多い。



たまには、二人で食事にだって行く。




それなのに―――




 
「でさあ、衛がね『遥はいつも強引過ぎるんです』とか言うのよ」

 
向かい側に座り、ランチを食べる想い人の口からは、今日も幼馴染みの名前が出る。


「だってそれは――ねえ、ボンボン、ちゃんと聞いてる?」



「お前は、食べるか喋るか、どっちかに集中出来ないのか?」


羽生は呆れた様に言う。


せっかく一緒に食事に来たというのに、彼女の口から出る話題は、いつも同じ。



「むぅぅ…。
ボンボン以外に、あいつの愚痴聞いてくれる相手がいないんだもん」


「ダンナの愚痴なら、女友達にでもこぼせ。
女っていうのは、そういう話題が大好物だろうが」


 
「だから、衛はダンナじゃないってば!
それに、何、その女性蔑視な発言は?」



ああ言えば、こう言う。


退屈はしないものの、せめて違う話題があれば、と羽生は思う。



「お前の話題はいつも相田の事ばかりじゃないか?」


「そ、そんな事…」

と、遥は考える表情になる。


「他にも、あるわよ!
事件の話とか、容疑者の話とか…」



「つくづく、色気のない女だな」



「悪かったわね」



「すぐにそうやってムクれる。
だから、相田にもたしなめられるんじゃないのか?」



「…そうかも」



――ほら。

 
 
本人は気付いてないだろうが、相田衛絡みの事となると、彼女は途端に『女の子』の顔になる。




あいつは、ズルい。



警視正との間に、何があったのかは知らないが、父親と同じ土俵に立たないくせに、いつも的確な推理をする。


そのお陰で、事件が解決した事も多々ある。



遥の事にしても。


幼馴染みという立場に甘んじていながら、心の奥では彼女を想っている。



そのくせ、今の関係が崩れてしまうのが怖いから、自分の気持ちを押し隠している。



そんな女々しい男のくせに、幼馴染みという特権で、いつも彼女の近くにいて、彼女を名前で呼ぶ。




―――俺は、あいつが嫌いだ。




「ボンボン…?」
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