学校からの帰り道、伊作子が突然、駅前の本屋に行きたいと言い出した。
私も本屋は好きなので、もちろん快く同行した。
……のだが…

「仙子!ほら、急がないと見えないよ!」
本屋は平日だと言うのに、バカみたいに人で溢れかえっていた。なんでも今日は、最近出版された本の作家のサイン会があるらしい。
伊作子は本の発売日を間違え、不運にもサイン会の整理券を入手できなかったとか。
けれど一目だけでも、その作家の姿を見てみたいと言うのだ。
私は人混みは苦手だが、可愛い伊作子の為なら我慢できるし、これだけの人を集めるほど人気の作家ならばと、私も興味が湧いた。

人いきれの中、何とかサイン会のテーブルが見える場所を確保すると、伊作子は自分のカバンを漁り始めた。
「…伊作子?な、何だその格好は!?」

伊作子は制服のブラウスの上から、野球のユニフォームを羽織り、頭には、某ネズミよろしく、青い耳の付いたカチューシャを身に付けていた。
私が呆気にとられていると、周りからドッと大きな歓声が沸き上がった。

「きゃあああああっ!!」
「ドアラー!ドアラ先生ー!!」

同じく叫び声を上げ、飛び跳ねる伊作子のユニフォームには、背番号「1994」と、「DOARA」という文字。
伊作子の目線の先、テーブルには、何やら妙な姿の着ぐるみが居た。
大きな耳と目、鼻は、動物をモチーフにしているのだろうが、体は人間そのもの、何故かスーツを着ている。おまけに頭にはベレー帽。

目の前の光景と、周りや伊作子のはしゃぎっぷりが全く理解できない私は、恋人に問い掛けた。
「…何なんだ、あの気持ち悪いのは…?」
「ドアラ先生!すっごくキモいよね!可愛いよね!!」

満面の笑顔で答える伊作子。だが、私には、あれの何処が「可愛い」のか分からない…。
気が付けば周りの人々も、伊作子と同じユニフォームやTシャツなど身に付けていた。それに、尚も止まぬ歓声…。

(……私の感覚がおかしいのだろうか…?)

私は、とてつもないアウェイ感を受けながらも、「伊作子が楽しそうに喜んでいる」事に対して、自分も喜ばねばと、自己暗示をかけるのに必死だった。

その後は、どうやって帰宅したのか覚えていない。
ただ、その日の夢の中で、あの奇妙な作家(?)が踊りだし、私は安らかな眠りにつく事が叶わなかった。

おわり






…………………………
ゆはた様から連続でおそば頂きました!可愛いおそば頂きました!若干きも可愛いです…青いコアラみたいなやつが…。よもや自分宇宙炸裂させてる仙子と伊作子話を書いて下さるとは夢にもおもわなんだよおかあちゃん!悶絶!
ゆはた様ありがとうございました!

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