「…仙蔵…!?」
気が付くと、強く抱き締められていた。
「伊作、私はお前が好きだよ…」

場所は医務室。
軽い擦り傷を負った仙蔵に、伊作が消毒液を塗っていると、急に体を引き寄せられていた。

「相変わらず伊作は薬臭いな」
「…せ、仙蔵は、火薬臭いよ…」
「なぁ、お前は私の事をどう思っているんだ?」
「…そ、そりゃ僕も、仙蔵の事は好きだよ?」
「だがお前のその感情は、きっと友情の様なものだろう…?」
仙蔵の腕に包まれたまま、伊作は返す言葉が見つからなかった。何故なら図星であったから。
しかし、こんなにも近い距離。女性の様に端正な顔立ち、冷静さの中に妖艶さを混ぜた声色で仙蔵に告げられると、伊作も変に意識して、体温と心拍数が上がってしまう。
「…どうして急に、仙蔵はそんなこと言うの?」
混乱した伊作は、場の雰囲気など考えられず、率直な疑問を投げ掛けた。

「好きだからだ…。お前の何もかもが。お前は皆に慕われているから、他の者にとられる前に、私の気持ちを伝えねば、取り乱してしまいそうだった」
「…嘘だっ…」
伊作は仙蔵の肩を掴み、力を込めて引き剥がすと、真直ぐに仙蔵を見つめて話を続けた。
「…仙蔵は、優秀で格好いいから、その…女性からも…男性からも、たくさん言いよられるでしょ。
僕なんかじゃ、仙蔵に釣り合わない…。容姿も何もかも全て…」

「どうも話が合わんな」
仙蔵も伊作へ目線を合わせたまま、表情も変えず、けれど言葉を続ける。
「…私は、いつの間にか、優秀などと言うレッテルを周囲により貼られ、誰からも距離を取られていた。忍者ならば、それでも仕方ない、むしろ好都合なのかとも思った。
しかし伊作…お前は違った。いつも私に笑顔で話しかけてくれ、私の体調や怪我を、いち早く察しては手当てをしてくれた。
私はそんなお前に心を動かされた…。孤独だった私の心を溶かしてくれたのは、紛れもなく伊作、お前だ…」
だから好きなのだと、素直に伝えてはいけなかったか?
と、次第に仙蔵の白い頬は紅潮し、表情も柔らかくなった。

「ぼ、くは……。
仙蔵の事、好きだけど、でもそれは、他の同級生たちへと同じ様な感覚だし…それに…」
「体調を気遣うのは、自分が保健委員だからだと言うのだろう」
「……ごめん」
「謝らなくて良い。お前のそんな所も、私は好きなのだから…」
そして仙蔵は、伊作の髪を撫でながら、今度は優しく抱き寄せた。
「…私はお前のこの髪もとても好きだ。他人に気を遣い、己の手入れ不足ゆえに、クセ毛だからボサボサで乱暴に結ってある、この髪も」
「…ボサボサとか、酷い。仙蔵みたいな、美しい緑の黒髪が羨ましいよ、僕は」
「だがお前の髪は柔らかく、触れると安心するよ…。それに…」

仙蔵は、伊作のおとがいに手をあて上を向かせた。
再び間近で、見つめ合う形になる。
「…お前の喜怒哀楽にコロコロ変わる顔…中でも慈愛に満ちた笑顔が、私にはとても愛しい…」
仙蔵は、ゆっくりと伊作へ顔を近づけ、軽く唇を重ねた。

「……せんっぞ…!?」
「…だから私は伊作が好きなのだ。気持ちの抑制が効かぬ程にな…」
そう言うと、するりと体を離し、仙蔵は医務室の扉へ手を掛け、背中越しに話しかけた。
「困らせたなら悪かったな…伊作。
私は…お前を自力で振り向かせてみせるよ。怪我の手当て、感謝している…」

そしてロクに挨拶もせず、仙蔵は立ち去ってしまい、医務室には動揺した伊作が取り残された。

ふと、床を見ると、梅の枝が一本。
白い、香りを楽しむ花からは、まだ蕾なのに必死に甘い匂いを漂わせている。
「…仙蔵…。この梅はまるで、君みたいだね…」
伊作は梅を拾い上げ、いとおしく見つめながら、花瓶は何処にあったっけ?と思いつつ、一連の仙蔵の言葉と行動を反芻した。
まるで今の自分は、紅梅よりもずっと真っ赤に染まっている事だろう。

そうして伊作は、手元の白梅に頬を寄せた。








………………………
ゆはた様より頂きました「梅が枝」ありがとうございました!おいしいおそばです…おいしすぎますこれどうしよう!ほのかに梅味です。ちゅーがたまりませんってかメンズのくせに何この可愛さ!
本当にありがとうございました!

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