忍たまテキスト2

□御守
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「ない……ない!」
伊作が文次郎のごとく目をギンギンに血走らせながら部屋をとっちらかしている最中、同室の食満が風呂から帰って来た。
「伊作ー、次風呂…うぉわ!何やってんだお前!」
部屋の中は空き巣に入られた以上の散らかりっぷりを見せていた。
まさに足の踏み場もない状態だ。
どうやったらこの状態になるのだろうか、衝立までひっくり返っているのだが。
「留三郎!君も手伝ってくれ!」
何をどう手伝っていいのやら、それよりもこの部屋のカオス具合を説明してほしい。
幸い食満の荷物は全く触れられていないが、この散乱っぷりはあたかも「巨人の星」の星一徹が部屋に乱入し、ありとあらゆる家具やらを手当たり次第ちゃぶ台返しをかましていったかの如く酷い有様だった
「探し物か?」
「そうだ!あれがないと…ぼぼぼ僕は部屋から出られない!」
彼がいつも持ち歩いていたものなどあっただろうか?
「貴重品か?」
と尋ねると、首がもげそうな程激しく頷いた。
貴重品の類でこれほど取り乱した伊作は見たことがなかった。
そもそも貴重品に関して言えば彼は相当ずぼらだった。
何故かいつも風呂場に財布やらが落ちていたり、食堂に落ちていたり、酷いときには学園長の部屋にまで落ちていた。
「貴重品」というからにはもっと丁重に扱ってほしいものである。
「幾ら入ってたんだ?
「へあ?」
「へあ、じゃねえ!財布に幾ら入れてたんだ?」
「財布…?違うよとめ!貴重品ってお守りのまもちゃんのことだよ!」
「ま…まもちゃん?」
一ヶ月前に温泉で取得したお守りの事らしい。
お守りごときを貴重品と言い切ってしまうほど伊作が固執するとは…食満は心底げんなりした。
「お前…まだもってたのか?」
「あれは霊験あらたかな和尚さんが厄除け護摩炊き塩漬けとありとあらゆる念をこめて僕にくれたんだ…おかげでここしばらくは平穏無事に生きてこれたのに…」
確かに、あの小さな木彫りの菩薩像を首にぶらさげて以来、伊作の不運が若干緩和された気がする。
道を歩いてもこける回数は一日一回に抑えられたし、授業中もありえないミスはなくなった。必ず怪我して帰ってくる保健委員の面子が無傷で生還した時は感動すら覚えたものだ。
あれは自己啓発のたまものではなく、御守りの効力だったのか。
普通であれば「嘘だろおまえ」とののしるところだが、相手はあの学園中の不運を集めたような男、善法寺伊作なので素直に信じるしかなかった。
「ああどうしよう…あれがなかったら僕はまた不幸の絶頂だあ!」
「不幸の骨頂だろ。上がってどうするんだ」
「骨でも絶でもいい!とにかくあのお守りがなかったら僕は死んでしまう!」
お前今まで死ななかったじゃん、というつっこみはため息でかき消した。
「わかった、一緒に探してやるからまず片付けろ」
「え、あ、うん」
とにかく片付けさせないことには今夜寝る場所がない。
これでは探しているのか散らかしているのかわかったもんじゃない。
未だ心ここにあらずな伊作は上の空で片づけているせいで衝立が真横をむいていたり、机がさかさまだったりと更に酷い有様だ。
今夜眠れるだろうか…
食満は本日二度目のため息をついた。

「やっぱりない…」
片付けたはずの部屋がまたも星一徹乱舞に戻った。
「忍務中に落としたんじゃないのか?」
「そうだろうか…だとしたら戻らなくては…」
「今ドクタケ城に戻るというのか、やめてくれ、っつーかやめろ」
いくらなんでもまた腐った青梗菜の顔を拝むのは御免被る以前に教師らが止めるであろう。
「でも…あれがないと僕…」
「御守りがないだけで弱気になるな!もし見つからなかったら明日の朝また貰いににいけばいいだろ?」
「…貰いに行くまでの道のり…2時間はかかる…」
「早起きすればいいだろ!とにかくそんな気落ちすんな、第一あれがあったから不運が最小限に抑えられたとはかぎらな」
言ってるそばからろうそくの火が突然たたみに落ちた。
「火事だー!」
「待て落ち着け!水だ水!おりゃ!」
「とめー!それアルコール!」
「ぎゃー広がったー!」
かくして突如怒った不運故、二人の安眠は見事阻止された。

朝。
手早く仕度をすると二人は学園を後にした。
外は生憎の雨。
「雨程度でよかったな」
「すまない留三郎、僕のために…」
「気にするな。同室のよしみだ。それにお前がその不運をなんとかしない限り、俺にも不運がつきまとうんだからな」
頑張って克服しようぜ、と笑う食満の歯はまばゆかった。
「うう…ありがとう!心の友よ!」
某暴君の言葉をそのまま拝借し、二人は雨の中元気に出かけた。
しかし寺までの道は往復二時間。
不運を背負った二人にはあまりにもかかりすぎである。
10分も歩かないうちに、天候が荒れに荒れまくって暴風雨を巻き起こした。
二人分の不運のなせる業である。
「とめさぶっ!!」
風で吹っ飛んできた丸太が伊作の顔面に直撃した。
「うおぉ!伊作しっかりしろ!丸太ごときで伸びるんじゃねえ!」
丸太ごときと食満はいうが、この場合早々に介抱するところだがそこで励ましあうのが6年は組である。
伊達に幾多の傷を背負っていない。
あまりにも酷い天候っぷりに二人は断念して学園へ戻ろうとした。
「留三郎…」
「ああ、溜まりに溜まった不運が暴発したようだな」
元来た道沿いに流れていた川が氾濫し、帰り道が塞がれてしまった。
「僕ら…帰れるかな…」
「とりあえず…祈っておこうぜ」
そう言う食満の目は虚ろであった。
朝の彼の、石鹸のような白い歯が今や遠い思い出に変わってしまった。
その後、彼らは忍者らしく泳いで激流を渡り、不運らしく溺れ、どこぞの村人に助けられたが「この洪水は神の怒りだ、生贄を出せ」と名誉ある生贄に抜擢されたりてんやわんやのおおわらわであった。
完膚なきまでに打ちのめされた。

学園に戻る頃には二日経過していた。


「ありえねえ…」
「…」
医務室にて。
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