忍たまテキスト2

□山菜
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**彼女-伊作とトモミと仙蔵-**


「先輩!善法寺先輩!」
おっかない形相で六年生の教室を床が抜ける勢いで歩いてくるのはくの一教室の
「あ、トモミちゃん」
である。
トモミが捜していた人物は絶賛トイペ補給中であった。
いつもの爽やかな笑顔で迎えるが、相手はにこりともせずいきなり襟首を掴みにかかった。
「どうしてくれるんですか!責任とってくださいよ!」
「ぐぇ!な、なんのこと…」
トモミの爆弾発言のおかげで上級生一同は一斉に誤解した。
男女間で責任をとれだなんて言われたら血気盛んな若者であれば夜の営みしか想像できず。
「伊作…くの一に手を出したのか?」
その場に居合わせていた仙蔵の視線が疑いの色を放つ。
こちらも誤解しているもよう。
トモミの言葉を撤回したくとも首をきつく絞め上げられている。
女とは思えない程の力だ。
伊作の意識が遠退いていく。
「くの一の皆の誤解といてくださいよ!『私逹付き合ってません』って!何で私が先輩なんかと付き合わなきゃいけないんですか!」
………
「なあんだ」
「いつものデマか」
「帰ろ帰ろ」
「つまらん」
「時間無駄にした」
人だかりが一気に散っていく中、伊作は気を失った。

気が付けばお約束の医務室。
「おそよう」
声のする方に視線を投げれば爽やかな仙蔵の笑顔と不貞腐れているトモミの顔が何とも対照的である。
「…で、何で私はあの場で絞められなきゃいけなかったのかな?」
げんなりしながら怪力くの一に尋ねるとギロリと殺気を送られた。
くの一教室は怒らせると忍たまが束になって襲いかかったとしても太刀打ちできない。
おそらくドクタケ城なんぞ軽く乗っとる事ができるだろう。
故に皆あまり一線おいて、寧ろ十線おいた関係をもっている。
だが
「先のトモミの発言を聞いて…まさかお前が死に急ぐとは思わなくてな、いやすまなかった。お前にそんな勇気あるはずないことを忘れていたよ」
「どうせ私には死に急ぐ勇気もなけりゃくの一とお付き合いする勇気もないさ!」
今度は伊作がふてた。
「ちょっと先輩!早く皆の誤解といてくださいってば!『私はトモミさんとまっっっったく関係ありません。濡れ衣です。陰謀です』って!」
何の陰謀か。
そもそも誰がこんなどうしようもない事で謀る必要があるというのだ。
「わかったわかった…一緒に行くから機嫌直してくれ」
「待て。相手はあのくの一だ、おおかた『じゃあ先輩は他に付き合ってる人いるの?六年にもなっていないなんて怪しいなあ〜?やっぱり二人とも付き合ってるんでしょ?』という具合に話は拗れること請け合いだ」
「何でそうなるんだ!」
「なるほど!」
「えっ!?そうなの?」
仙蔵のシミュレーションにおもっくそ同意を示すトモミと乙女心がイマイチ理解できない伊作。
「ならばそれ相応の準備が必要だな」
「でも善法寺先輩に彼女がいるとは到底思えませんし…」
「そうだな。一時的に街の娘らに彼女のふりをしてもらったとしてもこやつの演技力ではバレるのも時間の問題だ。さてどうするか」
「言いたい放題だな本人目の前にして」
こめかみに青筋をおっ立てるも表情は笑顔の保健委員長。
本当は怒りたいところだがこの場合の力関係はトモミ〉仙蔵〉伊作という見えない公式が成り立っている。
とにもかくにもくの一は最強なのだ。
弱者は黙って堪えねばなるまい。
「ところで先輩、彼女いないんですか?」
「聞くのが遅すぎる気がするよトモミちゃん」
「で、実際はいるのか」
「お察しの通りだよ!」
「「やはり」」
伊作は怒りを通り越してもうどうでもええ感じになってきた。
「困ったなあ…そもそも善法寺先輩がずっと前に私をおぶったりしたからいけないんですからね!皆から冷やかされたりしてすごく困ってるんですよ!」
「それは言い掛かりだ!確かに怪我させたのは私かもしれないが…」
「くの一を怪我させておいて死に至らなかっただけの運が残っていて良かったな」
「…仰る通りです」
仙蔵の一言で血の気が引いた。
はあ、と溜め息をつくトモミは
「こうなったら誰か女装が上手な人にやってもらうしかないかな」
とぽつり漏らした。
ふと仙蔵がぱっと目を見開いた。
「いるぞ!これの彼女役が!」
「えっ!本当ですか?」
「才色兼備、文武両道、全てにおいて完璧!淑やかで色白器量良し!(秋田名物うどん風)こいつにはもったいない位の娘がいる!」
「失礼だな!でも確かにそんな美人は僕にはもったいない!」
「自分で言わないでください…。で、その人にはいつ会えるんですか?」
フフ、と大変思わせぶりな(というか企んでいるような)笑顔を向けると、仙蔵は立ち上がった。
「1分で逢わせてやろう」




「と、いうわけで、善法寺先輩にはれっきとした仙子さんという彼女がいるの!」
「えーー!!嘘ぉ!!」
「仙子さんが?!善法寺先輩と?!」
「ちょっと嘘でしょ?!仙子さんそれ本当?!」
くの一らが一斉に喚き立てる。
かなりショックのご様子だ。
「本当です」
「だって、相手は学園一不運な…」
「そうよ!仙子さんだって知ってるでしょ?」
「考え直した方がいいって…ね、仙子さん!」
「仙子さん!」
「仙子さん!」


「…皆して私と先輩の事はさんざん茶化してたくせに仙子さんとなると…何あの変わり様は!」
「…私の意思はどうでもいいんだ…そっか…」
「ふっ、くの一の憧れの的の座にまで上り詰めた自分の変装は完!璧!だな」
結局、仙蔵の完璧主義に拍車をかけて騒動は幕を閉じた。


「あれ?ところで立花先輩は?」
「…知らぬが仏だよ、トモミちゃん」






………………………………
伊作苛めに拍車がかかった。
今は反省している。
自分の脳内でくの一最強伝説がいつの間にか築かれていたもよう。
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