忍たまテキスト2

□友達
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食堂の一件の後、伊作は事ある毎に潮江にちょっかいを出された。
伊作にとっては不愉快極まりなく、潮江が何か言ってくる度に食って掛かった。
向こうが面白がってからかっているのを知っているから余計腹が立つ。
「僕を見下してえらそうにして…許せない!」
暗いやつ、とか、友達が一人もいない、とか、不運等言われるならまだ分かる。
だが、潮江はそれとは全く関係のない事で伊作を馬鹿にした。
運悪く潮江とは苗字が近いせいで授業でもよく二人で面を合わせて実技を行うことが多かった。
「なんであいつは「しおえ」なんだ!」
潮江家の皆さんには罪はないが、伊作は潮江の苗字にすら敵対心を抱くようになった。
今日も野外演習にて。
「お前はひょろひょろのちびだからどうせすぐにばてちまうだろ、そこの木陰で休んでたらどうだぁちびすけ?」
と馬鹿にされた。
ちびすけちびすけといわれているがお前と大して体格は変わりないだろう、そう言いたかったが潮江の壮絶な喧嘩の最中を一度目撃した為、なるべく殴り合いのとっくみあいにならない程度に反発した。
「あの拳で殴られると痛そうだし、僕は喧嘩弱いから…」
しかし、伊作にもプライドがある。
いつかあの乱暴者をギャフンといわせる為に、休み時間や放課後に時間を見つけてはこっそり体力作りに精を出すのであった。
そして次の日の演習。

「なんだ…ちびすけのくせに素早くうごきやがって!」
持久走で、初めてあの潮江に勝てた。
信じられなかった。
とても嬉しかった。
何もとりえのない自分が初めて潮江に勝てた。
毎日の特訓の成果が今この瞬間、初めて実った。
伊作はとても気分がよかった。
でも、偉ぶろうとか威張ろうとか、そういう気持ちは全然起こらなかった。
「もしかしたら、このまま頑張れば潮江と喧嘩しても勝てるかもしれない」
伊作は潮江に更なるライバル心を燃やした。
そして打倒潮江を胸に、放課後の特訓を今まで以上頑張った。
しかし、喧嘩の前にどうしてもやり遂げたい事があった。
そう、早食いである。
授業が終わるとすぐさま食堂へ行き、潮江がいつも頼んでいるA定食を早めに食べるのだが、後からきた彼は伊作とは比べ物にならない勢いで飲み込んでしまうのだった。
そしていつも
「やっぱりおせーなちびすけ!」
と吐き捨てられるのであった。
もっと早く食べなきゃ潮江に勝てない。
伊作はとにかく勝ちたい一心で前日の晩御飯を食べずに今日を迎えた。
その結果。
伊作はわずかだがいつもよりも早く食べ終わる事ができた。
潮江にはいつもと変わらず馬鹿にされたが、頑張りが報われたことに僅かではあるが自身がついた。
もっと頑張れば、もっと頑張ればいつか潮江にたどり着ける。
いつの間にか伊作は潮江の背中を追っていた。
潮江が目標になっていた。
あまりにも真剣に追い続けるあまり、周りの聞こえざる声も変わりつつあることに気がつかなかった。

昼食後。
「…あれ?なんか気持ち悪い…かも…」
伊作の体は突如不調を訴えた。
思えばここ最近の休みなしの特訓に加えて前日の夕食抜きがたたってしまったのだろう。
胃の中の食べ物が全く消化せず腸へ流れず胸につまっているような感覚。
保健室へいくべきか。
しかし、授業で遅れをとりたくない。
ここで休んだらまた前の自分に戻ってしまう気がした。
伊作は耐えた。
だが、気持ちとは裏腹に症状は悪化する一方で。
「も…もうだめ……!」
体を小刻みに震わせて、一瞬の目眩と共に畳の上に勢いよく吐いた。

同級生のざわめき声
先生が何かを言っている。

「きたねー」

「うわさいあく」

「くせぇ」

皆の非難の声がいつも以上に耳に、頭に響く。

やってしまった。

もう終わりだ。

伊作は大粒の涙をぽろぽろ零した。


「うるせぇ!」

非難の声を一掃する、腹に堪える一際大きな声。
いつも聞いている、あの声。

「お前らが昼食ったものと同じだろうが!こいつがくせぇならおめーらもくせぇんだよ!」
教室中が静まり返った。
誰も何も言わなくなった。
「保健室へいくぞ」
腕を引っ張られ、ふらふら立ち上がると潮江は伊作の顔に背中を押し付けた。
「そのまま体重かけろ」
背中に抱きつくような体勢をとらされたが、畳だけでなく忍び装束も汚してしまった為汚物が潮江にまでついてしまう事を懸念して身を起こす。
だが
「気にしてんじゃねえ、しっかり掴まれ」
と酷く優しい声で言うものだから、伊作は素直に従うしかなかった。
保健室へたどり着くまで、潮江は文句も言わず担いでくれた。
背中の汚物も気持ち悪いだろうに、文句いわず背負ってくれた。
「……ごめん…」
生理的な涙と皆の前で嘔吐をしてしまった羞恥心からの涙でぐちゃぐちゃな伊作は今にも死にそうな声で詫びた。
潮江はいつもよりも数段トーンを下げて
「ごめん、じゃなくて…ありがとう、だろ」
と呟いた。
「それに」
一呼吸おくとさらに言葉を続けた。
「謝るのは俺の方だ…お前がずっと独りだったのに何もしねえで見てただけだったしよ」
潮江は気にかけてくれていた。
教室の隅で話し相手もいない、寂しそうな伊作の事が。
皆で和気あいあいと楽しそうにしているのに、独りだけ…というのは見ていて辛いものがあった。
昼休みに、休み時間に、放課後に、声をかける機会はいくらでもあった。
だが、声をかけなかった。
かけられなかったのだ。
入学してできた友達らに伊作を誘ってみないかと持ちかけたが、反応は冷たいもので
「あいつ暗そうだから」
「運動音痴だし」
「仲間に入れたら絶対足引っ張るって」
辛辣な拒絶の言葉に苛まれた。
生まれつき正義感の強い潮江だったが、ここで孤立するのは自分にとっても伊作にとっても得策とはいえない、そう判断した。
ならば、自分の力を周りに認めさせて、「見て見ぬふり」がいかに卑怯かということを示そうと考えていた。
多少荒々しい方法であったが、力技でようやく周りが自分に従い始めた頃を見計らい、伊作に声をかけた。
だが、勇気を出して声をかけた潮江の言葉は苛めっ子のそれと変わりなく。
ずっとそのことを気に病んでいた。
しかし話せば話すほど伊作との啀み合いは続く一方で、全然友達らしくなかった。
今こうして伊作を背負っているのはせめてもの罪滅ぼしのつもりだった。
伊作は何か言いたかったのだが、頭も胃腸もぐるぐるしていたせいでうまく考えがまとまらず、黙っていた。

自分で思っていた以上に伊作は疲労が溜まっていたらしく、保健室で放課後で昏々と眠り続けていた。
目覚める頃には気分も体調も大分おちついていた。
どうしても教室には行きたくなかったが、潮江の事が気にかかり勇気を振り絞って戻った。
できれば、誰もいないことを切に望んだ。

そっと教室を覗き込む。
…いた。
潮江だ。
「よお」
潮江は伊作の机の上に座っていた。
「さっきはごめ…」
言いかけたが、先の潮江の言葉を思い出して言い直した。
「さっきはありがとう」
「無理すんじゃねえ」
言い方はぶっきらぼうだが、心配してくれる気持ちは十分に伝わった。
少し安堵すると伊作はちらりと畳に視線を投げた。
だいぶ派手にやらかしたので掃除が大変だな、と内心落胆していると
「…あれ?」
そこは既に綺麗に掃除された後だった。
伊作の意を汲み取ってか、潮江がさも当たり前のように言った。
「ん、ああ。やっといた」
「そんな…だって汚い…」
「もう片しちまったからいいだろ」
うるせえなあと頭をがりがりかくとさっさと帰り支度を済ませてしまった。
その背中を見れば、伊作の汚したあとがまだ残っていた。
「それ、僕に洗わせてよ」
「ん?ああこれか。別に俺自分で洗えるからいらねえよ」
「頼むよ、やらせてよ。でないとさすがに僕情けないよ」
あまりにも申し訳なさそうな伊作の様子に文次郎は明るく言った。

「風呂場で洗うか」


体の汚れもきれいにして、忍装束の汚れも落として落ち着いたところで二人は湯船に浸かった。
「ぼく…」
先に口を開いたのは伊作だった。
「こうやって同い年の子とお風呂はいるの初めてだ」
「俺も友達と風呂入るのは初めてだ」
伊作は大きな目をさらに大きくした
今、友達って…。
伊作は心がじんわりと温かくなるのを感じた。
しばらく温かさに浸っていると
「お前、ずっと俺にびびってたんじゃねえか?」
と尋ねられた。
散々酷いことをしたので、潮江自身も嫌われていた思い込んでいたのだ。
伊作は素直に問いに「うん」と答えた。
「絶対いじめられるって思ってたから…」
「ばかたれ、びびってるやつにびびりながら話しかけたらなめられるだけだぞ。怖いやつほど真っ向勝負で当たっていかなきゃだめだ」
腕を荒々しく振りながら熱弁する彼のそれは、たくさんの痣や傷でいっぱいだった。
痛そうだなぁ、そう眉間にしわを寄せながら見つめていると、潮江は視線に気がつき誇らしげに「ここの傷は田中とやりあって、ここの痣は田原に噛まれて」と更に雄弁に語りだした。
最初はその数々の武勇伝に怯えていたが、生き生きとしている彼をみていると何とも頼もしいものを感じた。
それが彼の魅力なのかもしれない。
伊作は思った。
突然、潮江が手を差し出した。
「まあ、いろいろあったけどこれから宜しくな、伊作」

初めて名前でよばれた。
胸がかぁっと熱くなったのを感じた。
「うん、よろしく、文次郎」

固く手を握った瞬間、ちびすけは伊作の中から消えた。

次の日、伊作は元気よく教室に入り、教卓の前で皆に謝った。
「昨日は皆に不快な思いをさせてごめん。次からは気をつけるよ。それから、畳を掃除してくれてありがとう」
暴力で人と理解する事は自分にはできないが、誠意を見せることで皆に近づく事ならできる、そう考えた故の行動だった。
これで詰られたり非難されたら仕方が無い、やるだけの事はやった。
そう思った伊作の顔は少し晴れやかだった。
自分の席につき、しばらくすると潮江の取り巻きが数名近づいてきた。
「大丈夫か?」
彼の安否を気遣ってくれた。
「うん、ありがとう!」
伊作は、ここの学園に来て初めて笑顔を見せた。












………………………………
文章がかなり爛れてますがご愛嬌。
結構書いてて楽しかったけど見直したら言い回しが…まあ、愛嬌。
文次郎と伊作が一番仲よさげだなぁ…そうか(他人事)
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