忍たまテキスト1

□紫桃
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運悪く次の日は休みだった。
あの後、血迷った伊作は「自分が女役やるからナンパしてみてくれ!さあ!」とご乱心あそばされた発言をなさり、さすがに参った仙蔵は「今度ナンパに付き合ってやるからマジ勘弁」とその場凌ぎの言葉で取り繕った。
私と一線を越えてどうするんだ伊作よ…。
げんなりする仙蔵と対照的に満面の笑顔で「本当?!うわぁ…仙蔵が一緒なら百人力だよ!ありがとう!じゃあ明日よろしくね!」とO型ならではのマイペースっぷりを発揮し、「今度」の予定が「明日」に移行されてしまった。
誰も明日なんて言ってない、と仙蔵が口を開いた時には伊作は風と共に去っていた。
先ほど頬を撫ぜた風はとんだ台風を連れてくれたものだ。
明日の事を極力考えず、仙蔵は部屋を後にした。


「…遅いぞ」
「え?!ごめ…って、僕時間通りに来たのに…」
「誘った貴様が私より遅く来てどうする。もし私が貴様の想い人だったら確実に破局を迎えていたぞ」
「!!そうだよね、これじゃあ女の子に失礼だよね!」
仙蔵は僕を男にする為にわざわざ早く来てくれたんだ、と思い違いも甚だしい伊作の身なりをまじまじと見つめる仙蔵。
「…こ、この格好、おかしいかな?」
「一張羅だという事は見て分かる。なかなかの上物だ。だがな」
裾を掴みひらひらさせる。
「男を目指そうという時に桃色とは何事だ!」
伊作の私服は本人の趣味かわからないが、何故か桃色桜色の類いが多かった。
普通に着る分には「あらかわいいじゃない」で済まされるが、さすがにこれからナンパするという疋に女子のような桃色桜色はどうかと仙蔵は頭を抱えた。
「ええ!これじゃだめ?!困ったな…これから着替えに帰る訳にいかないし…あ、仙蔵。その服とっかえっこしよ」
「断じて断る馬鹿者!!」
「大丈夫だよ、紫も似合う仙蔵なら桃色もなんのその、だ!」
「なんのそのとは何だ!」
延々と続きそうな漫才の最中、仙蔵はふと周りの様子に気がつく。
若い女子らがこちらに視線を投げ掛けているようだ。
向こうでも、またあちらでも。
それは決して不快な視線ではなく、羨望の眼差し、もしくは恋愛感情のそれに近いものだ。
私の美しさは罪だな、いつもの自惚れが発動するところで我に返り伊作を見遣る。
女子らの視線は私に向いているのだろうが、肝心の伊作はどうだろう。
男の目からすると伊作の顔は男前の部類に入ると思う。

今まで彼に声をかけた娘はいなかったのだろうか。
女子が好みそうな容姿だと思うのだが。
とにもかくにも、何としても伊作と女子との縁結びを成就させてやらねば…以後延々と伊作の彼女攻撃が続くであろう。
とっとと終わらせるべく、仙蔵は近くにいた若い娘達に声をかける。
「少しよろしいかな?」
よもや声をかけられるとは思ってもみなかった娘達は大はしゃぎでお互いの顔を見合わせた。
顔を赤らめながら一番背の高い娘が答えた。
なかなかの美人だ。
「は…はいっ!何でしょう!」
「実は我々はこのあたりは初めてなもので、どこか一休みできる茶屋などご存知ありませんか?」
「茶屋なら知ってますが…でも、今お一人じゃ…」
「は?」
後方を見ると、本日の主役が不在であった。
「ど…どこへ消えた…失敬!」
娘達があっ、と声を上げるより早く仙蔵は伊作を探す旅に出た。

「せんぞぉ〜〜たすけて〜〜〜!」

旅は1分で終了した。
怒り狂った八百屋のおっさんががっちり伊作を捕らえて離さない光景を目の当たりにし
「不運が発動したか…」
とがっくり項垂れるのであった。


今日は長い一日になりそうだ。
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