忍たまテキスト1

□銀龍
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「はあ…はあ…っ伊作……だ、大丈夫か…あし…」
「それよりもとめのが大変だよ!早く着物脱いで!」
死に物狂いで辿り着いた大木の下はかろうじて俺たちが雨宿りできる広さはあった。
安堵する前に、気持ち悪く張り付く着物を二人で協力し合いなんとか脱いだ。
夏だというのに肌寒い。
これが冬だったら間違いなく行き倒れていただろう。
本当にぞっとしない。
隣の伊作は座ったまま黙って前を見ている。
歯を噛みしめ、不安そうな、痛みを堪えているような、どっちつかずな表情。
「…痛いか?」
応えず前だけ見つめている。
俺も後は何も言わず、憎たらしい雨を睨み付けた。

…ざーーーー

…ざーーーー

…ざーーーーーーーー…



「」

伊作が何かを発した。
次の瞬間。


眩い閃光と共に、腹の底を突き動かすような鈍い轟き。

「うわっ!」

ゴロゴロゴロゴロ…ゴロゴロ…

ここに落ちるんじゃなかろうか。
こんな原っぱのど真ん中に存在を誇張していたら落ちない方がおかしい。
俺は慌てて伊作の腕を掴んだ。
「早いとこ引き上げるぞ!ここは危な…」
「大丈夫」
大丈夫なはずないだろ!と言いかけた俺は口を閉ざした。
伊作の様子が変だ。
目はずっと虚空をみている。
伊作の口が動いた。

そして


空が裂け、同時に空気がビリビリするような音が鼓膜に伝わった。

次は命がないだろう。
「伊作、本当にここは危ないんだ、俺が…」
「まだ…」
「まだ…ってお前!死にたいのか!?」

「とめ、しんじて。だいじょうぶ」

視線は未だ一点を見つめたまま、口ははっきりと声を紡いだ、
しかし、その声は伊作のものとかけ離れているように聞こえた。

…憑き者…?
だが血色はいつもと変わらず、額に手を当てれば体温もある。
俺にはもう何が何だか分からなかったが、ここから離れなければならない事だけはしっかり刻まれていた。
伊作の背後に回り、両脇に手を掛けると伊作の口がまた開き

「」

ドドゥ…ドドドォォォオオ…
グルグルグル…グゴゴォォォオオオ……

今度は音と音との間隔が短かった。


はっとして伊作の顔を覗き込む。
伊作の口が頻りに動く。

「」

グルグルグル…グルグルグル

また、動く。

「」

グゴゴォォォオオオウウゥゥゥォォオ

また

「」

グル…グガアァァアアアオォォオ……




まるで、雷が伊作に呼応しているかのように、伊作が雷に呼応しているかのように、吼えていた。
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