忍たまテキスト2

□飴玉
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恋とはもっと楽しいものかと思っていたが。
私のはなんて重く苦しいのだろう。

彼人の事を考えると天にも昇る気持ちというが、天どころか地に両足がめり込みそうな錯覚に陥る。
彼人の事を考えると胸が温かくなるというが、まるで魚の小骨が胸につかえたようにしくしく痛む。
おかしいな。
おかしいな。
これは恋ではないのかな。
新手の病かな。
西洋の医術で、足の裏に絆創膏を逆ハの字に貼ると精神を司る神経が安定すると聞いたのでやってみた。
首の後ろにも神経が集う部分があると聞いたのでついでに貼ってみた。
だが、私のこの痛みには全く効く気配はなかった。
どうやら病ではないらしい。
もしかして、これは依存なのか。
世間的な恋とは全く異質なこの想い。
それを私は恋愛と勘違いしているのだろうか。
だとすれば、どうすれば解放されるだろう。
彼人への想いを捨ててしまえば楽になれるだろうか。
しかし人間とは不思議なもので、「捨ててしまおう、捨ててしまおう」と念じれば念じるほど気持ちは募り、悪循環に陥る。
これではどうする事もできないではないか。

昨日、彼人に会った。
会うとのめり込んでいた両足が地に足ついたように軽くなった。
小骨が刺さったような胸の痛みもすっと抜け落ちた。
他愛ない話を二、三交わし、また去っていった。
すると、また両足はめり込み胸に骨が刺さる。
おまけに視界もぼやけて今にも泣きそうになる。
ああ、厭だ厭だ。
重い、重い、溜め息一つ。
痛くて、痛くて、辛い。
ずっとこの状態が続くのか。
手放すこともできず宙ぶらりん。
こんな気持ち、知らなければよかった。
あなたを、知らなければよかった。


この訳の分からぬ感情をに引きずったまま、図書館に入った。
そうだ、意識を勉学へと紛らわそう。
そして自分の気持ちが恋などではない、気の迷いだと思い込もう。
腹に決めた瞬間、何かが腹にぶつかった。
「…あっ、すみません。余所見をしてしまって」
「いや、此方こそ…あれ?君はしんべエの…」
「はい、カメ子と申します」


「そうですか…今日は中在家様はこちらにはいらっしゃらないのですか」
小柄な体が残念そうに肩を落とす。
「もうすぐ帰ってくると思うよ。それまでお茶でも飲んで待ってるといい」
「ありがとうございます。でも善法寺様は他にご用がおありなのでは…」
一時、間をおき、首を振る。
「いいんだ。私のは。ただの気晴らしだったから」
「何だか気落ちされてるようですが、何かあったのですか?私などでよろしければお手伝いさせて頂けませんか?」
さすがしんべエの世話役をしているだけある。
話には聞いていたがとても洞察力に長けていて、その上気配りができる子だ。
「うん…ちょっと恋煩いをね」
「まあ、素敵!私と同じですね!」
喜びに目を輝かせ頬を赤らめる彼女と対照的な私。
「素敵」と呼ぶにはほど遠い。
どうしてこの子は恋を喜べるのだろう。
楽しんでさえいるように見える。
これほど苦しいのに。
泣きたいほど心臓がはりつめているのに。
どうして。
どうして。
「カメ子ちゃんは長次が好きなんだね」
「はい、恋焦がれております。中在家様にはまだ伝えておりませんが…」
「…辛くない?」
「え?」
「私は…その人に会うと普通でいられる。その人を知る前も、もちろん普通でいられたんだ。でも…今は会わないだけで痛いんだ。痛くて、悲しくて、どうしようもなくなる」
「まあ…」
彼女の眉がハの字に垂れ下がる。
「そのうち自分の気持ちがよくわからなくなってくるんだ。これが果たして恋愛感情なのか、そうじゃないのか。…まるで病気だね、これじゃあ」
戯けて笑ってみせるが、自嘲しているように見られたかもしれない。
俯いた眼差しは手元の湯飲み茶碗に向けられたままだ。
すると、ごそごそと袂に手を差し込むと、笑顔を向けた。
「善法寺様にいいお薬があります。これを朝昼晩お食べください。決して噛んではいけませんよ」
そう言うと小さな紙袋を渡された。
「…本当に効くかな?」
「はい。私が以前善法寺様と同じ病にかかった時にこれを服用しました」
半信半疑ではあったが、今はわらにもすがる気持ちだった。
ありがたく貰い受ける事にした。
礼を言うと、彼女は廊下に見えた長次の背を追って駆けていった。

一人になって、暫くするとまた小骨のちくちくとした痛みが襲いかかってきた。
早速貰った薬を試してみた。
「…飴?」
桃色のかわいらしいそれを見て、がっくりと肩を落とした。
こんなもので紛らわせるほど軽いものじゃないんだがなあ。
落胆していても始まらない。
口の中に放り込む。
甘酸っぱい味と香りが口内に広がっていった。
暫く口の中で転がす。
徐々に香りと甘みだけが残っていく。
…そういえば。
最近何を食べたっけ。
痛い事ばかりに気が向いていて、他の事がおざなりだったな。
なんでこんなに痛かったんだろう。
嫌われないか不安だったのかな。
どうしていいのか心配だったのかな。
相手に合わせようとしていたのかな。
なんだったのかな。
わからないや。
わからないけど。
今私はこうやって飴を食べられて。
舌を使って味わうことができて。
おいしい、と感じる事ができて。
それだけでいい気がしてきた。

最後に口の中に残ったのは彼人の香りで、

…あ。

「やあ。今おいしい飴を貰ったんだ。一緒に食べよう」










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日常生活でもそうなんだけどさ。
「こうなったらどうしようどうしよう」って不安が具現化して空回りってねえ?
…うん、すいません自分恋愛話本当に苦手です。
恋愛がよくわからない人が書いてはいけません!いけません!(涙)

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