忍たまテキスト2

□憑物
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彼の世を垣間見た者は、それ相応の憑き物の厄介事に巻き込まれやすい

胃の僅か上の、切り口がぱくぱく拓くような鈍い痛みにもがき苦しむ。

ぬるり、と嫌な手応えを感じ両の手の平を見やれば、どす黒い血の塊で

臓物にも似たそれに息をのむと、押さえた部分から傷口がひゅうひゅうと息を吐き出す

痛覚が限界値をゆうにこえているというのに、未だ傷口が荒く呼吸する度焼かれるような激痛に悶絶する

悲鳴も出ない

ただ、呼吸もままならず、喘ぐだけ

殺那、胃の上にできた第二の口が獣のような雄叫びをあげた

そして

聞こえた

もうひとつの 心臓の音が

全身を打ち付けるような 激しい鼓動が 腹から

どう どう どう どう

耳障りな程に 静寂をかきむしるように

どう どどう どどう

このまま腹を引きちぎってやろうか
それとも脳を食い荒らしてやろうか

だが、心の臓には手は出さぬ
共存できなくなるのでな

喉の奥でねっとりとした下卑た笑いを浮かべ、胃の傷が静かに癒着していく

痛みも引いた

精神的な気持ち悪さに嘔吐しそうになるが、かろうじて呼吸が伴うようになり僅かに安堵する


その安堵はほんの僅かに過ぎず

肺が業火で焼かれた感覚に陥り、傷が小指ほどの大きさに開かれると


血の赤に染まった 眼が ぎろりとこちらをみている

見えるぞ、下界の様子が

腹から生えた眼が笑っているかのように細められた

否、笑っているのだろう
腹から伝わる振動がまさに

眼が何かを捉えた


あれはうまそうな、どれ


手が自らの意思とは無関係に、隣ですやすやと寝静まる童の首に触れる


めろ め ろ やめ

や め




「…んせ、せんせ!」
「…きり…ま」
「大丈夫?汗びっしょりだよ」
「…生きてたか…」
「え…何?…悪い夢見たの?」
「……みず…」
「あ、ちょっと待ってて。汲んでくるよ」

夢にしてはあまりにもおぞましく、存在感がありすぎた。
胃の上に在る古傷に触れ、夢である事を確認しながら擦る。
なんて夢だ…畜生。


コーーーーン


空間に響き渡る鳴き声に身体が戦慄めく。
飛び起き音のした方へ駆けると
「あ…せんせ、ごめん。柄杓落としただけだから」
きり丸の手を見ると、血の気が一斉に引き、全身から冷や汗がどっと出た。
「きりま、る…その傷…」

手首から滴り落ちる、鮮血。

「これ?よくわかんないけど…かまいたちかな。水を汲んだらいきなり井戸から風が吹いてきて切れたんだ」




これは うまそうな





隙間風がひゅうひゅう吹きすさび、遠くの山で獣が嘶くのが聞こえた。












………………………………
この話の何が一番怖いかって


実話って事。

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