忍たまテキスト2

□友達
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学校に入りたての頃は、同じ教室に友達や幼馴染がいれば少しは心強いものである。

が。

遠方から上京してきて、且つ恥ずかしがりや、若しくは不器用であったり要領が悪かったりすれば教室に馴染むのも遅くて。
多くはうまく立ち回れず孤立、最悪いじめの対象となる。
今、善法寺伊作がまさにその状況下に於かれていた。

入学して一週間が経つも同級生と交流をはかれないと「暗い奴」「とっつきづらい」などの偏見の眼差しを浴びることになる。
大人の世界では気遣いが生じるだろうが、子供の世界はとても残酷で、「好きか嫌いか」だけで区分けされる。
伊作は決して暗くはなかった。
だが、
「うわあ!」
「どうして何もないところでこけるんだお前は…」
驚く程ドンくさかった。
ちょっとでも皆の仲間に入れるよう委員会も率先して入ったのだが、よりによってあの不運付きまとうといわれている「保健委員」を選んでしまった。
どんくささ+不運が付きまとうおかげで同級生との距離感は開けるばかり。
昼食もいつも独り寂し気に食べるのが日課になってしまった。

孤独である。
休み時間も楽しげな同級生らの話し声の傍らで、一人読書に勤しんでいる自分の陰口をたたいているのではないか、そんな不安が付きまとった。
「早く授業はじまらないかな…居心地悪いよ…」
おいしいと評判の食堂でさえ物を飲み込むたびに胸が焼けるような感覚だけが残り、味などわからないでいた。
忍びになる為にここへやってきたのだ、友達を作る為にいるのではない。
頭ではわかってはいたが、チームワークを重んじる忍者の世界で交流も持てず孤立してしまうのはこれからの将来も暗いものにしてしまう。
そして今日も食堂で独り。
「明日はおにぎりを持ってどこか他の場所で食べよう」
そう決めていた伊作の目の前に
「ここあいてるな、へなちょこ」
伊作の断りもなしにいきなり前の席にずどんと座ったのは潮江文次郎。
周りを見渡せば、すし詰め状態の食堂。
唯一空いている席といえば伊作の目の前だけであった。
潮江の事はよく知っている。
同じ教室のリーダー格…というよりボスの座に君臨しており、言うことを聞かないやつは容赦ない鉄拳をお見舞いしている乱暴者だ。
その乱暴なやり方に伊作は不満を抱きつつも極力関わらないよう距離を置いていた。
そんな苦手意識を持つ潮江が今、目の前に座っている。

最悪だ…いじめられる…。

伊作はそう直感した。
潮江は伊作の皿を見ると早速意地悪な顔つきで
「ひょろひょろのちびすけは食べるのも遅ぇなぁ!しかもにんじん残してやがらぁ!」
「……にんじん好きだからとっておいてるんだ」
伊作は大好きなものには嘘をつけない性分故、僅かに抵抗を示した。
「嘘つけ!嫌いだから残してんだろー!」
「嘘じゃないよ」
「じゃあ食べてみろよ、ちびすけ」
伊作はかっとなって、皿ごとにんじんをかっ込んだ。
どうだ、と言わんばかりに睨みつける。
「へっ、何ムキになってやがんだ。俺なんかお前の数倍早く食えるぞ!」
そう言うが早いか潮江はものすごい速さで飯を食べ始めた。
食べるというより飲み込むというべきだろうかこの場合。
あまりの勢いに伊作は唖然とした。
あっという間にきれいにA定食を平らげた文次郎は、大声で勝ち誇ったように笑うと
「お前にはどう逆立ちしたって無理なんだよちびすけ!あー食った!」
と言うだけ言うと嵐のように去っていった。
奇跡的にいじめられなかった。
しかし、胸の中には悔しい思いがぎっしりつまっていた。
「ちくしょう…!なんでこんなに悔しいんだ!」
自棄糞になると伊作は残りのご飯を口の中に詰め込んだ。

負けられない、あいつには負けたくない。

それは伊作が抱いた、初めての感情だった。
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