忍たまテキスト2

□腕章
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「後は頼んだぞ、善法寺」
「はい、任せてください」
六年生の卒業式。
学園を巣立ち行く先輩から委員長の古ぼけた腕章を右腕につけてもらった時、伊作は嬉しさが込み上げてきた。
5年間、不運を呼ぶと恐れられてきた保健委員を地道に頑張って務めてきた証。
長年の努力、信頼、それらが腕章に全部籠められていた。

これから私が委員会を盛り上げていくんだ!

決意した伊作の目は輝いていた。


「あ、仙蔵」
校門に見知った綺麗な黒髪を見つけ、声をかける。
仙蔵は伊作を見ると腕の腕章に気が付き、笑顔で祝った。
「委員長就任おめでとう」
「ありがとう。仙蔵もおめでとう」
仙蔵の右腕を見ると、伊作と同じく作法委員長の証が。
仙蔵なら成績優秀だし器量もよい。
委員長に選ばれて当然である。
努力で委員長に選ばれた自分との違いを見せつけられたようで何となく負い目を感じた。
「お、お前達もか?」
馴染みある声のする方を見ると食満、長次、文次郎がこちらへやってきた。
各々の右腕には、やはり委員長の腕章が巻かれていた。
「やはり会計委員会の長は俺の他に存在しないな!これからギンギンに会計を取り仕切るぞ!」
「今後お前が学園の金を握るなんざ恐ろしくて幸先不安だぜ…」
「何だと!たかが用具の分際で…」
「てめえこそたかが会計の分際で!」
「やるか!」
「やめんか馬鹿共!」
仙蔵の一喝で二人は押し黙った。
「…おめでとう、二人共」
長次が僅かに笑みを浮かべて言った。
互いに委員会就任を祝い合う中、伊作だけが何も言わず俯いていた。
皆の言葉をどこか上の空で聞いていた。

「まあ五年は俺しかいなかったから自動的にくりあがっただけなんだけどさ」

「…面倒…」

「まあ、仕方あるまい。六年の人数自体少ないのだから私たちがやるしかないだろう」

「てめえらやる気がないなら辞めてしまえ!」


「そうだよ」


突然の伊作の一言に沈黙が訪れた。
声色に怒りの色を滲ませながら早口でまくしたてる。
「そんな中途半端な気持ちだったら委員長は辞めるべきだ。下で支えてくれる後輩の迷惑を少しは考えたらどうなんだ」
いつもの伊作とは全く違う彼に皆困惑した。
「…すまない」
先に謝ったのは食満だった。
「…別に謝らなくていいよ。僕が困るわけじゃないから」
その言い方にひっかかるものを感じた仙蔵が口を開きかけた時
「うおお!皆ここにいたのかー!」
タイミングがいいのか悪いのか微妙なところで小平太がいけいけどんどんよろしく飛んで来た。
いつもなら何か突っ込みを入れるところだが、状況がそうさせなかった。
「ん?どうした?喪中か?」
「小平太黙ってろ」
「何だと!…あ、いさっくんそれ!」
それ、と指差したのは保健委員長の腕章であった。
「…これがどうかしたの?」
「え?だっていさっく…」
「悪いけど僕、薬調達しなきゃいけないから」

場の空気を濁したまま、伊作は踵を返した。



わかってる。
後輩の迷惑になるなんて、そんなの自分の本心じゃない。
これは皆への嫉妬と、自分の名誉を傷つけられたが故の苛立ちだ。

一生懸命頑張り続けて名誉ある委員長に選ばれたというのに、片ややりたくないのに委員長に選ばれた友人ら。
成績も今一つで、何をやっても不運が付きまとう伊作が予々憧れていた「委員長」という大変名誉ある役割に、彼らはいともたやすく就任してしまったのある。
伊作は間違った事は言っていないはずなのに、嫉妬心が心の大半を占めており、とても悔しくて情けない気持ちになった。
肩を落とし、ため息をついた。
「最低だ…」
「最低じゃない!」
大きな声が上からふってきた。
何事かと慌てて振り向くと、小平太が天井にぶら下がっていた。
「こへ…」
よっ、と地面へ着地するとどっかり目の前の机に胡座をかく。
「おめでとう!保健委員長!」
いつもなら笑顔でありがとうと返すところだが、今はとてもそんな気持ちになれない。
「別に…こんなの誰でもなれるし」
「なれない。わたしはなれなかった」
小平太の一人称がいつの間にか「わたし」に変わっていた。
「…何だよ。いつもは俺だったじゃないか」
「けじめだ」
「…何の」
「委員長の」
小平太の右腕にはしっかり腕章が巻き付いていた。
伊作の胸中を再び苛立ちがわき起こる。
「…なれたんじゃないか」
「違う」
「何が」
「委員長に頼み込んだ」
伊作は黙った。
知識教養は進級できるか危ういと言われていた小平太に体育委員長はとてもじゃないが時期委員長を任せられない、来年五年生に進級する後輩に一任すると決めていたらしい。
だが、それには最年長の小平太のプライドが許さなかった。
何としても後輩に年上としての示しをつけなくてはならなかった。

「それで…どうしたんだ?」
「…闘った」
「は?!」
「委員長が決めた時期委員長と闘って勝った方を委員長にするって」
「…はは…そりゃ、こへに勝てる奴なんていないもんな」
「強かったぞあの4年生!のど笛噛み切ったら泡ふいて倒れたけど」
「人殺し駄目!!」
「大丈夫、怪我したらいいんちょいさっくんが見てくれるから問題ない!」
「僕を何だと思ってんだよ!」
「委員長」
真顔で言った。
「わたしは知ってるぞ。いさっくんは休み時間も保健室で薬作ったりトイペ配ったり委員長からとても頑張ってるっていつも褒められてたもんな。だから自分の力で委員長になってすごいって思ったけど、やっぱりいさっくんじゃないと駄目なんだって一緒に思った」
吃驚した。
そこまで小平太が自分を見ていてくれてた事、そして保健委員長として認めてくれていた事。

「委員長になるって当たり前じゃないんだぞ。なりたくてもなれない奴だっているんだ」

小平太はどれほど悔しい思いを抱えているのだろう。
学力では劣るが、体力、戦闘、格闘面に於いては伊作の数倍も上回る小平太。
伊作も、放課後に率先して体育行事の催し物や運動会の運営、授業の準備に遺憾なく力を発揮していた小平太を知っていた。
たまに常識はずれなところもあったが、誰からも好かれ、人を引っ張っていく力が彼にはあった。
だから、当然委員長なんてなれるものとばかり思っていた。
だが、それだけでは、努力ばかりでは報われない事もあるのだ。

さっきまで妬んだり僻んでいた自分はいなくなった。
代わりに罪悪感に苛まれた。
「誰でもなれる」だなんて心にも無い事を言ってしまった。
小平太を傷つけただけでなく、今までの己の地道な努力までも否定してしまった。
ごめん、と謝るより先に小平太が口を開いた。
「いさっくんより遅れをとってしまったけど、わたしも委員会をしっかりまとめていく。どちらが立派に委員長できるか、いさっくん競争だ!」
顔は笑顔だが、目は真剣だった。
「こへ…」
「な!勝負だぞいさっくん!」
例え遅れをとったとしても、周りに振り回される事なく、また負い目を感じる事なく自分の力で食いついていく精神力。
その意志の強さ。
やっぱり小平太はすごい、伊作は目の前の友人を改めて尊敬した。
「…うん!僕負けないよ!」

この瞬間、伊作は初めて自分自身を認めることができた。






「聞いたか、小平太の」
「ああ。伊作との約束を果たす為に土下座までして委員長に願い出たらしいじゃないか」
「本当に…馬鹿だよな、あいつ」
「…いいやつだ」
「俺らも遅れとらないように頑張ろうぜ!」
「てめぇに言われなくても俺は一人でもやるっつの!やる気ねぇ奴はとっとと失せろ!」
「まだ言うか!人がせっかく改心したってのに!」
「全く…お前ら委員長としての資質皆無だ」
「…同意」











「こへー、僕ね、ほけんいいんになったんだ」
「いさっくんすごいなー、おれはたいくいいんだ」
「こへは運動すごいもんね。僕はおっきくなったらどんな傷もなおせるいいんちょになるよ。そしたらこへがたいくいいんでたくさんけがしても大丈夫だよ」
「へへへ!じゃあおれはうんどうにがてないさっくんがうんどう好きになるようにいんちょになる!」
「うん!約束だよ!」
「おう!きょうそうだ!」








…………………………
最近…勝手に過去模造したりでっちあげたりが酷い有様なんですけど…
気がついたら幼少期のいさっくんはこへと一番仲良かったり…長次は小さい頃から体傷だらけだったり…自分ルール甚だしいな…
パラレルとはいかないまでも…まぁいい…か…(諦)
てか最後の二人、ちょっと頭悪すぎた気がします。気がするというか事実…

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