忍たまテキスト1

□感情
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後輩に言われてとても頭にきた。

「善法寺先輩ってすぐ感情的になって子供みたいですね」

と。

最初は後輩同士が何か言い争っていて、仲裁しようと割って入ったらいつの間にか僕が後輩と言い争いになっていた。
何の話だったか既に忘れた。
ただ、その台詞だけが頭にこびり付いて離れない。
何だよ。
僕はいつも感情をむき出しになんかしていないだろう。
怒るところは怒った、それだけなのに。
確かに「忍者たるもの如何なる時も冷静沈着であれ」には反していたかもしれない。
だがそれを言ってしまえば他の六年生はどうなる。
いつでもギンギンだの、いけいけどんどんだの、バラエティーに富んでいるじゃないか。
…他の連中はこの際おいておこう。
くそ、まだいらいらする。
あいつどこの委員だ。


「すぐ感情的になって子供みたいですね」


まだ大人になりきれていない、そんな焦燥感。
その言葉に過剰に反応してしまったのはきっと焦りなんだろう。
大人になるという事は、自分の感情を押し殺して生きていかねばならないのか…。

それは、人間の最も重要な部分をそぎ落としてしまう気がする。
どうしてもできない。
甘さ故かもしれない。
だが…


「うちのが迷惑かけたな」
夕方。
仙蔵がすまない、と頭を下げてきた。
ああ、気にしないでと笑った。
「…皆大人だよね。しっかり自分の意見言えてさ。感心した」
「今回の件がまだまだ教育の行き届いていない証拠。あれは口だけは達者だ」
「ははは、僕も太刀打ちできなかったよ」
空笑い。
何だか仙蔵と距離が遠のいた気がした。
背伸びしても、もうおいつかないところに彼がいる、そんな気がして。


「…伊作?」
「大人だなぁ仙蔵は。僕も感情的にならないで冷静にならなくては」

これ以上口を開くと僻みや嫉妬しか吐き出さない、そう思って会話を一方的に止めた。
「…じゃ」
「伊作」

呼び止められた。
でも振り向かない、振り向けなかった。

「感情的にならず冷静に徹するのと、大人になるのとでは大いに違う。感情に基づいて行動する事こそ人間の正しい生き方だ」


感情に従え

初めて言われた


「仙蔵!」

振り向かないまま、俯いたまま叫ぶ。

「でも…感情的になるってことは…まだ子供で…」

「自分の感情が理解できぬまま喚き散らすのが子供、自分の感情をしかと認め、それを相手に理解できるよう表現するのが大人だと私は思うが」


仙蔵の言葉がとても理解できた。
僕は、大人をまだちっとも理解しないまま体だけ大きくなって、心だけおいてけぼりなのが不安でたまらなかった。
大事にしたかった。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、そういう小さい頃からかき集めていたたくさんのものを全部置いていかなくちゃいけないのがとても寂しくて、寂しくて。


素直に、仙蔵の言葉が嬉しかった。
全部もっていっていいんだ。
このままで。
何も押し殺さずに、全部認めていいんだ。


「仙蔵、ありがとう」
「礼には及ばぬ、下級生達の詫びのつもりだ」


だがな、と付け加える。


「我々は忍びだ。無駄な感情は一切断ち切らねばならぬ」




一瞬、音がなくなった。









この時、僕は人生の分岐点に立っていた。











………………………
この歳になって思うのが「自分が小さい頃、この年代の人ってもっと大人だと思ってた」だったのですが…ろくでもないもんに育っちまったようですママン。それでも今まで生きて来た中でいろいろ培ってきたもんを大事にしていけばいいかななんて変なとこだけ楽天的ですが。
よく大人になる事は感情を捨てるとか、感情的にならないと言われますが、現実問題感情を抑圧しつづけてきた大人が様々な犯行に及んでいるところをみると、今の大人は大きな間違いを犯しているんではないかと心配です。人間に与えられた感情を抑圧せずもっと大事にしていけばねじ曲がった犯罪も減るのに。抑圧されて育つ子供は大人になってから大変な思いをします。ちょうどうちの世代がピークかも。感情の置き場に困った大人がふらりと血迷ってこの文章読んで何かポシティブに感じてくれたら幸いーって最後のおちが酷いけど。ごめんなさいもっと勉強するわママン。

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