忍たまテキスト1

□女形
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顔を洗おうと廊下を歩いていると、すれ違った仙蔵にいきなり耳をひっぱられた。
「うわあいででででで!!」
「何だ貴様そのナリは!!」
力の限り怒鳴られた。
「こっ…これは山田先生にっ!けして僕の趣味ではいだっいでで!!離せ千切れる!!」
「離してほしくばこっちに来い!!」
耳を解放されたところで襟首を掴まれ仙蔵の部屋まで引き摺られた。
一体何だというのだ、伊作には何が何やらである。

障子を閉めると乱暴に鏡を放り投げてきた。
「貴様には何が見える!」
質問の意図が見えず首を傾げる伊作。
いきなり殴られた。
「そんな汚く作られた顔で小首を傾げるな!ああもう見ていて大変不快だ!」
酷い言われようである。
「汚いって…仕方ないだろ。保健室で滝夜叉丸が入り浸っているもんだから山田先生とらんきりしんで追い出そうと考えた策で…」
はああああ、と大袈裟にため息をつく仙蔵。
「それで、山田先生プロデュースの化け物メイクと相成ったわけか」
化け物メイク、確かに山田先生の女装の噂は予々聞いてはいたが、直に拝むのは伊作はこれが初めてだった。
山田…基、伝子さんをこの目で見た時、恐ろしさに全身竦み上がった。
らんきりしんはいつもの事なのか、臆するどころか「最近化粧濃くなったね」ととても自然体だった。
「事情が事情なら仕方あるまい。だがな…これは酷すぎる!この世の終わりを垣間見た!」
そこまで言われると自分の顔はそれほどまで酷い造形なのかと錯覚してしまう。
伊作は落ち込んだ。
「時にお前…女装はできるか?」
「で、できる!授業で化粧とか少し習った!」
「完璧にできるか?」
「かっ!…多分」
「お前を取り巻く人間が見まごう程に完璧か?」
「そ、それは…」
「私をはじめとする友人知人布いては親兄弟ですら美しさに息を飲む程に完璧か?」
「いや…流石にそれは…」
「数多の男共がお前の美貌にひれ伏し」
「だああ無理!そんなの無理だ!」
勝利したとばかりに鼻を鳴らす仙蔵に苛立った伊作は負けじと食ってかかる。
「ならばっ…仙蔵はできるというのか!?完!璧!に!」
その言葉、待っていたとばかりに自信に満ち溢れすぎた笑顔を向けてきた。
「よかろう…私の完!璧!な姿、その目でとくと見るがいい!」
ゲームのラスボスのような台詞を吐くなり仙蔵は一瞬にして化粧から着物の着付けまで済ませてしまった。
THE、仙蔵マジック。
数分後に伊作の前に現れたのはまごうかたなき美女。
あまりの眩さに
「うっっ!!!眩しい!!!」
伊作は目を開けられないほどだった。
「完璧でしょう?如何かしら?」
ニコリと柔らかな微笑を浮かべる。
眩しさになれた伊作は、うっかり仙蔵だという事を忘れ暫く魅入っていた。
「…あのっ!お慕い申し上げます!」
「うっかりにも程があるぞ貴様。それからその汚い顔を近付けるな」
身の危険を感じ、アッパーを一発お見舞いした。
痛みで我に返った伊作は項垂れた。
「神様…こんな…こんな美女の本性が意地悪で傲慢な仙蔵だなんて酷すぎる!僕はどうしたら!」
「どうもこうもない。お前もやれ」
「この胸のときめきを返せー!って、え?何を?」
「何の為に手本を見せてやったと思ってるんだ。早く顔を拭いて準備をしろ」
「い、いやぁ…一応できるから…」
「女装を甘く見るな。歴史に残る彼の偉人達は皆女装で一命をとりとめているのだぞ。見破られたら打ち首だ。それは任務とて同じ」
「でも…僕は仙蔵のように美人じゃないから…普通の村娘で十分だよ」
そう言い俯くと仙蔵に顎を上にクイッと向かされた。
漆黒の瞳に穴が空くほど見詰められる。
またもうっかり仙蔵だということを忘れ、ときめきを覚えてしまった。
「あ…あ、あのっ!」
「案ずるな、私の手にかかれば忽ち絶世の美女に生まれ変わるだろう」
仙蔵の声で我に返ると手拭いで丁寧に顔を拭かれた。
「今からお前に完璧な女装を叩き込む。しっかり体に覚えさせろ」
「か…体にって…1日で覚えられるか」
戸惑う伊作に不敵な笑みを向けた。

「今日はお前にとって忘れられない日になる」

その言葉の意味を、伊作は後々嫌というほど理解するのであった。
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