忍たまテキスト1

□紫桃
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うららかな午後の日差しの中、黙々と縁側にて読書に耽る仙蔵。
あまりにも陽気が気持ちよすぎてついうとうとしてしまう。
頬を撫ぜる風がなんとも心地よく…

「何読んでるんだ?」
「!!」
気配を全く感じさせず突如背後から現れたのは、は組の善法寺伊作。
「…声くらい掛けろ」
「さっき声かけたじゃないか。気がつかなかった?」
無視されたかと思って…としょげる様は叱られた犬を彷彿とさせる。
なんとなくこちらが悪いことをしているような気になってきた。
これぞ伊作マジック。
「で、何か私に用件か?」
はっと顔を上げた伊作は突然周りをキョロキョロ見回し始めた。
挙動不審なことこの上なし。
「…文次郎は?」
「ぎんぎんとかしましく見回りしている」
「…そっか…」
突然神妙な面持ちになると、周囲の気配を気にしながら体を寄せてくる。
実は…、と小声で耳打ち。
次に仙蔵の耳に入ってきた言葉は

「あのさ、仙蔵は…お、女の子と付き合った事ある?」

『お、女の子』とどもるあたりがなんとも…初々しい事で。
顔が茹でたたこのように真っ赤だ。
「付き合うということは恋愛対象として、という意味で相違ないか?」
コクコク、と首を上下に振る。
「み…皆でそういう話しないから…あんまり興味ないのかなって思って…」
ぶっちゃけ言うと、仙蔵はその手の話にはあんまりどころか全く興味がない。
女などにうつつをぬかしている位なら自己の鍛錬に時間を割くほうが有意義というもの。
…などと本音を言おうものなら不憫な程しょげてよくわからない罪悪感に駆ること請け合いである。
とりあえず発言を胸のあたりで押しとどめ、差しさわりのない返答をした。
「…恋文なら貰った事はあるが、付き合うまでには至らなかった」
「恋文…やっぱりたくさん貰ってるの?仙蔵はもてそうだから色々詳しいと思って相談してみたんだけど」
仙蔵にあたってみて正解だったよー、と胸を撫で下ろされた。
「文次郎はきっと『そんなものにうつつをぬかすとは何事かー!』って怒るだろうし」
文次郎ではないが、自分も同意見だ、と思った。
「こへはきっと『恋愛ってうまいのか?』って言いそうだし」
そこまで奴は単細胞ではないだろう、と思った。
「留さんは前にそういう話した時『顔真っ赤にしてそっぽ向いちゃったから嫌なんだろうし」
あからさまな否定からして既に想い人がいると踏んでいいのでは、と思った。
「長次は結構恥ずかしがりやだからあんまり質問して困らせるのもよくないだろうし」
私は困らせてもいいというのか!と思った。
「そして巡り巡ってー」
「私のところへ来たというわけか」
お前のそれは人選ミスだ、と突っ込みつつ断りを入れようとすると伊作は全身を真っ赤にして
「そりゃ僕だって男だし…その、興味あるし…女の子と手を繋いだりして…あ、あとお茶飲んだり…
そ、それから……」
そんなうつむき加減で全身赤らめつつ「男」など言われても説得力皆無なのだが。
観察する分には面白いので「それから」の後を促してみる。
「……………せ…」
「せ?」
「……………………………せっぷん………」
「…」
デンプンの聞き間違いかと耳を疑うほどか細い声で「接吻」。
こやつは…接吻で子供ができると信じているのではなかろうか。
それ以前に信じていようがいまいが接吻で達してしまいそうな気がするが。

…先が不安だ。
この先、一体どのような形で相談を持ちかけられるのか…。
早々に断るべきだ、直感がそう告げている。
「伊作、あの」
「仙蔵!頼む!僕に恋愛のいろはを教えてくれ!!!」



…合掌
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