忍たまテキスト1

□才能
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部屋に二人。

部屋の主と 客人。

別に部屋へ招いた記憶はないが。あまりにもへしゃげた様子が六年居住区を不運に陥れかねんと判断し、捕獲に至った。
…「招いた」よりも「捕獲した」という言い方が正しい…だろう。致し方あるまい。
ここで野放しにすればどこぞの馬鹿共に更に絶望の淵に追いやられ、学園全土が最悪の運に見舞われるのは目に見えている。
不運の権化、基…不運の元凶にへしゃげた理由を聞くも先ほどから項垂れ正座のまま黙りこくるばかり。
早く何とかしない事にはこちらが被害を被る。
しかし無理に口を割らせるのは筋ではない。
暫し書物に目を通しながら待つ。

「…」
「…」

茶が温い。
新しい茶を二人分煎れ直した。

「…」
「…」

茶菓子の饅頭が乾いてきた。
自分の分は腹におさめ、一人分は新しいのに取り替える。

「やっぱり…」
蚊の鳴くような声でぽそりと話し始めた。

「見下されてるよね」

「…」

「…舐められてるよね…」

脳内に生意気な後輩の面々がずらりと並んだ。

「そうだな」

にべもなく斬り捨てた。

「…仙蔵は厳しいなあ…」

再び本に目を通す。

「事実だ」

「…何がいけないんだろ…皆の為に一生懸命やってるけど…」

「過度に頼られていいように使われるのに疲れたか」

唾を飲み、更に深く頭を垂れる。

「いい加減自分の為に動いたらどうだ」
「…」

「誰かの為だとか、皆の為だとかお前に抱えきれん大義名分翳して潰され見苦しく嘆く位なら」

一呼吸おき、茶を啜る。

「貴様の為に五体を活用しろ」

項垂れていた頭が僅かに浮上した。

「少しは使う側も理解しろ」

ようやっと顔を上げたと思えば童のような泣き顔で。
「できないよ!そんな事…人を利用していいはずな…」
「使えんならもっと頼るなりせんか!」

「…」

再び頭が沈む。

「…皆に追い付くまで…迷惑かけないって…独りで頑張るって…」
「傲るな。貴様は生まれてから一度たりとも迷惑を被らなかった事があったか」

「…」

「貴様だけではない。人は皆何かを糧にして生きている。ならば」
茶を喉につかえたものと共に全て流し込む。

「もう割り切れ。おまえができる事だけに力を尽くせばいい。無理難題に出くわしたら完璧な私に頼る方がよほど懸命であろう」

畳に幾粒もの染みができる

「お前は不運不運と周囲から懸念されているが…その不運と相反する『皆がほうっておかぬ才能』を天から与えられている。喜べ、これは完璧な私ですら持ち合わせておらん」

「…さいのう?」

「お前の不運も能力という事だ。さもなくば誰が好き好んで不運なんぞに近づくものか」

「…」


ずぶ濡れた畳を布巾で拭く。
「全く…最初から口を割れば畳も濡れずに済んだものを…」

ずずっと鼻を啜る。
「ごめん…」

「今更だ。これに懲りたらもっと自分の力量なり能力なりを知れ」
「…自分知るのって…難しいね」「当たり前だ。その為に生きているのだろうが」
「でも、仙蔵の事はよく知ってるよ」
畳を拭く手を止め、顔を上げた。
「…ありがとう、それとお茶…ごちそうさま」

顔洗ってくる、と告げ部屋を後にした。

「…」

栞を挟み忘れた書物を捲る。


「…それがお前の才能…人徳、か」


狡いな…と呟き、書物を閉じた。





……………………
才能っていうか人徳ってやつですね。
これはどんなに一人で頑張っても得られないよね普通。
いさっくんは人徳とか人柄とか人脈とかそういうところが強みだと思います先生。
 

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