仙子ちゃんと伊作子ちゃん話其の2

□駅のホームで
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二年最後のテストを目前に控えてる私は、とてもぴりぴりしていた。
三年になったら普通コースから特進コースに進んで、恋人の仙子と同じクラスで一緒に勉強するって決めたから。
だから、今回の学期末のテストで何としてもいい点とって、クラス変更の申請をするんだ。
普段の授業でもそんなに成績は悪くないけど、特進へ進むには点が足りない。
先生が「学期末のテストの総合評価によってはお前ならいけなくもない」って教えてくれた。
頑張ろう、何がなんでも。


朝昼晩、ずっと教科書と向かいっぱなし。
正直言って辛かった。
辛かったけど、でも、使命感に駆られてがむしゃらに勉強した。
仙子が「私も何かしたい」と言ってくれた。
けど、これは私がやるって言った事だから、仙子のお荷物になるわけにいかない。
だから断った。
早朝の通学時も、平日のお昼休みも、放課後の帰宅時も、土曜日のランチも、週に一度の日曜日のデートも、全部勉強に費やした。
頑張って勉強して、特進に入って、仙子に「すごいね」って褒めてもらいたい。

勉強ばかりで仙子との仲がぎすぎすしていた事に気がつかないほど、私は無我夢中だった。


仙子は私が勉強している間もずっと私の隣にいてくれた。
でも私が教科書とばっかり向き合ってたから…仙子、声かけられなかったんだろうな。
ある日、何か言いたそうにしている仙子についイライラして
「何?用があるなら早く言って」
って冷たい口調で突き放してしまった。
その時の仙子の顔、思い出したくない。
今だったら「酷い事言ってごめんね」って謝るけど…あの時は頭がいっぱいいっぱいで…すごく悪い事した。
私がそんな態度をとってしまったのに仙子は「邪魔してごめん。何か飲み物買ってくる」って、いつもあったかいココア買って来てくれた。

優しい仙子。

徹夜でふらふらになって保健室に運んでくれたのも仙子だった。
差し入れしてくれたのも仙子だった。
お昼のサンドイッチ買ってくれたのも仙子だった。
帰りの電車で人に頼んでまでして席に座らせてくれたのも仙子だった。
その優しさに甘えすぎた。
「それが当たり前」だと振る舞っていた私の態度はどんどんエスカレートしていった。
「仙子だから大丈夫」なんて、慢心しすぎた。
きっと何度も彼女に酷い事した。
教科書ばかり見ていた私は仙子を見る余裕が全然なかった。


私が今こうやって死にものぐるいで勉強に勤しんでいるのは仙子の為だって事を思い出したのは、仙子が私の隣からいなくなってからだった。


なんだか急に不安になった。
不安になりながらも「勉強」に追い立てられるように教科書とノートを開いた。


涙が出た。


ノートの赤い印、教科書のアンダーライン、「テストによく出る」って文字、これ全部、仙子の字だ。

前に「よくテストに出る場所に印つけといて」って教科書とノート放り投げたのを思い出した。
「分かった」と一言、仙子はこんなに丁寧に印と文字で分かりやすく埋めてくれてたんだ。
全然気がつかなかった。
近すぎて、わかんなかった。
いつもいてくれるのが当たり前だなんてとんでもない。

仙子、ごめんね。


本当にごめん。


たくさん酷いことしちゃった。


もう絶対戻ってきてくれない。


こんな酷い奴のそばになんかいたくないよね、仙子。


大切な恋人を傷つけた。


仙子の為にやってきた事が、全部無駄になった。
急に涙が込み上げてきて、昼間の屋上だというのに大声で泣いた。
ばかだ。
私、本当にばかだ。

次の日、私は今までの無理が祟ったのか高熱を上げて寝込んだ。
仙子はお見舞いに来てくれなかった。
当然だ。
来てくれるはずない。
だってあんなに酷くあたってしまって…。
また涙が出て来た。
ぼろぼろ止まらなかった。
二日経つと、クラスの友達がお見舞いに来てくれた。
授業のノートも綺麗にとってくれた。
けど…友達には悪いけど仙子ほど細かくなかったし、ただ黒板を板書したにすぎなかった。
そう思ったらますます仙子が恋しくなった。
…でも、仙子はもう私の事なんか何とも思ってないよね。
勝手に失恋したと思い込んで、布団の中ですすり泣いた。


一週間後、熱がひいてようやく学校に戻ってこれた。
クラスの皆が「大丈夫?」と心配してくれた。
その中に一番会いたい顔がなかった。
やっぱり…そうなんだ。
私の思い込みが確信に変わった。
もう涙も出なかった。



最後にちゃんと会って話そう。

「今までごめんね」って。

そして



「今までありがとう」

って。

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