仙子ちゃんと伊作子ちゃん話其の2

□ちいさいころのはなし
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ふと、小さい頃によく遊んだ公園へ行きたくなった。
なんとなく、仙子にもその公園を知ってほしくて誘ってみた。
二つ返事で一緒に行くことになった。


徒歩15分。
昔と変わらない景色がそこにあった。
誰もいないはずなのに、何故か楽しそうな空気が満ちている。
ぶらんこがゆらゆらゆれてて、落ち葉が風にぴゅうぴゅう吹かれてくるくるダンスを披露している。
ぞうさんすべりだいの脇に咲いてる、色とりどりの可愛いシバザクラ達を見つけた
「このシバザクラの蜜が美味しくてね、吸いすぎて頭痛くなってた」
花をひとつまみして、ちゅうと蜜を吸い出すと、懐かしい味が仄かに口へ広がる。
仙子もまねてちゅうと吸うと、ふうんと目を瞬かせた。
「美味しいね」
うん、と黙って頷く仙子。

ぶらんこの横にかきの木があった。
今も元気に青い実をつけている。
今年の秋にまたこようかな。
「この柿ね、いつも大きくて美味しいんだよ。仙子にも食べさせたいなあ」
木を仰ぎ見る私のすぐ横に仙子は立った。
同じ目線で木を眺める。
横目で仙子を見るけど、その白い顔から彼女の表情は読み取れなかった。
「ねえ」
「ん?」
「ぶらんこ乗ろ」
きーこーきーこー漕ぐ。
錆びた鎖の音が年期を感じさせる。
昔は、もっと高くまで漕いだら絶対空に届くって信じて疑わなかった。
でも、背が伸びて、いろんなことたくさん覚えてくうちに青い空には絶対届かないって、分かってしまった。
大人になるってつまらない。
子供の時のほうがずっと想像力働かせられて、世界がきらきらして見えてたのに。
大人なんてつまんない。

何となく気持ちが冷めてしまったので、焼き芋を買って帰った。


「…さっき」
「ん?」
「何を考えてた?」
「え…?さっき…」
「ブランコの時」
ああ、そうだった。
ずっと仙子をのせたまま背中押してたのに、急に「帰る」なんて。
悪いことしちゃったな。
「ごめんね。なんか…昔のように楽しいかなって思ったら、そうでもなくて…もう空も遠くなっちゃって、全部きらきらして見えなくなっちゃってむなしくなったんだ」
仙子は黙って聞いてた。
怒ってるかな。
何も言わないけど。
「わたしは」
暫くして仙子が口を開いた。
「…経験したことがないものばかりで…楽しかった」
仙子の口から「楽しかった」って言ってもらえた。
それだけで、今日行ってよかったな、新しい思い出できたなって思えた。
空が遠くても、地に大好きな仙子がいるからそれでいい。





「私の小さい頃は…家から出た記憶が全くないから」
「え?何?今なんて…」
「…なんでもない」
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