仙子ちゃんと伊作子ちゃん話其の2

□誕生日の過ごし方
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誕生日の朝。
隣には仙子が体をすり寄せて眠っている。
規則正しい寝息。
首筋には昨日私が吸い付いた跡がほんのり赤く残っていた。
肌が白いから目立っちゃうな。

まつげ長い
唇真っ赤
髪の毛さらさら
きれいだな

眠る仙子を見ながら、昔絵本で読んだ「白雪姫」のお話を思い出した。
黒髪に雪のように白い肌と薔薇のように真っ赤な唇かあ…。
まるで仙子みたい。

顔にかかっている長い黒髪に触れると、ぱちりと目を覚ました。
「…おはよう。朝か」
「うん、おはよう。よく眠れた?」
「…おかげさまで。お前は元気だな」
「そうでもないよ。あ、先にシャワー使う?」
「……うん」
仙子が何か言いたそう。
…あ。
「仙子、この間一緒に買った泡風呂に入ろ」

ピンク色のバスバブルスを浴槽に入れると、真っ白い泡がもこもことおっきくなっていった。
綿菓子のよう。
手ですくうと、シュワシュワと泡が小さく弾ける音がした。
「もう湧いたのか?」
振り返ると仙子が私と同じく何も纏わない姿で入って来た。
「あ、うん。もうちょっ…仙子こら」
背後から胸を揉まれる。
「…夜あんなだったのにまだ足りないの?」
「いや、なんとなく。裸でいられるとつい」
なんとなくで人の胸揉まないでほしいけど。
なんだか変な気持ちになってきちゃった。
背中には仙子の胸があたってるし。
ああ、だめだだめだ。
仙子の手首を掴んで動きを止めさせる。
「先にお風呂にしよう。その後で」
「え、…うん」
多分仙子のことだからちょっといたずらしたかっただけなんだろうけど、まさか私から誘われるなんて思ってなかったろうな。
泡風呂で向かい合わせに座って、真っ白い顔を真っ赤に染めてるのを見ると、可愛いなって思う。
食べちゃいたいなあ。
…食べちゃおうかなあ。
あんぐりと肩に噛み付いた。
「何してるんだ」
仙子がきょとんと目を丸くしてる。
「仙子を食べてる」
あぐあぐと甘噛みするだけで仙子の肌には私の歯跡が残った。
「変な伊作子」
くすくす笑われた。
そしてその口が私の唇に柔らかく噛み付いた。
「お返し」

あまりにも綺麗な笑顔で言うものだから、今度は私の顔が真っ赤になった。
男の子じゃなくてよかったって思った。


しばらく二人でぶくぶくやって、のぼせそうになったところでベッドに戻って、体を触り合いっこしたら仙子がとても色っぽい声を出すものだから、なんだかとまんなくなっちゃって、

結局、昨日の続きになっちゃった。

私ががっつくようなキスをしたせいで歯と歯がぶつかりあって、それがなんだかおかしくて二人で声をあげて笑った。
へんなの。
私たち、へんなの。


ベッドでちゅうちゅうしてたらお腹がぐうと鳴ったので、近くのコンビニへ出かけた。
私はドリアとお菓子。
仙子はおにぎりとお茶。
買うもの正反対。
ついでにお財布の色も赤と青で正反対。
唯一同じなのは、二人共おんなじ匂いってことくらい。
今だけだけど。


部屋に戻ってまたベッドの上。
ねっころがりながらドリアを食べる。
仙子は端に座って「行儀悪いぞ」
とドリアを奪った。
ああーと情けない声を出すと「しょうがないな」とため息一つ、私の口元へ運んでくれた。
ひなになった気分。
食べさせてもらってから
「おかあさん、もっと」
なんてふざけて言ってみた。
そしたら
「今日の伊作子、ちょっとおかしいぞ」
って呆れられた。
おかしいんじゃないよ、嬉しいんだよ。
今日は特別にたくさん甘えていい日だもの。
そう決めたんだから。
だからもっと甘えさせてよ。


ごはんを食べ終わってから、ラフな格好で外に出て、大した話題でもない映画みて、夜食にそのままの格好で近くのカフェへ足を運んだ。
仙子のおごり、なんだけど、月末だからパスタだけおごってもらった。
「遠慮するな」
って困ったように言う仙子に笑いながら
「遠慮じゃなくてダイエットだから」
って言った。
もっと食べてもいいのに、って笑い返された。
気持ちだけ受け取っておくね。
ほんとはね、ごはんはすぐ済ませて早く帰りたいんだ。
外出は嫌いじゃないけど、今は仙子をひとりじめしたい。
二人だけで過ごしたい。
ずっと仙子に触れてたい。

ごめんね、わがままで。
今日だけ赦してね。


部屋に戻って、テレビつけて、二人で手をつなぎながらぼーっとしてた。
ぼーっとしながらも仙子の手の温かさとか、たまにこっちに投げる視線とか、そういうちょっとしたことで愛しさがすごくこみ上げて来た。
ぼーっと幸せを噛み締めた。
明日も誕生日ならいいのに。
あと10分で終わりだなんて。
「伊作子」
「ん?」
「…お誕生日、おめでとう」
「何?改まって」
「…いや。伊作子が生まれてくれて嬉しいから…何度でもいいたい」
「そう?私は誕生日じゃなくても仙子がいてくれて幸せだって何度でも言いたいよ」
「私だって」
ちょっとむきになった仙子。
可愛い。
仙子の腕を引いて、顔を寄せたら先に仙子が私を押し倒してきた。
「…今日も泊まっていったら…邪魔?」
瞳を潤ませ、不安げに尋ねてくるものだから
「あれ?まだ誕生日プレゼントもらってないけど?」
なんてとぼけてみた。
そのままゆっくり体重をかけてきた仙子の重みを、幸せと一緒に全身で感じた。



真っ赤な唇から吐息が漏れると、私は部屋の灯りを消した。

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