仙子ちゃんと伊作子ちゃん話其の2

□善法寺について
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善法寺伊作子について語ろうと思う。

とにかくいろんな場所で目についた。
目についたという言い方は語弊を招くが、とにかく何かにつけて目で追っていたように思う。

別に好きだからとか、そういう理由ではなく。
第一、女は嫌いじゃないが、あまり好きでもなかった。
顔ではにこにこしながら腹の探り合いばかりで陰口を叩いている女共をみてると「近づかない方が身のためだ」
とかなり冷めている自分がいた。
で、なんで冷めてる俺が善法寺を目で追ってしまうかというと、あまりにも不運な境遇のせいだろうか。
あいつの行くとこ為す事全てが空回ったり事件に巻き込まれたりしているのを見ると胃が痛くなる。
本人は至って善意でやってるっつーのに絡まれたり怪我したりと大変痛々しい。
これだけ痛い目をみながら本人は尚も甲斐甲斐しく人に優しくしてやっているっつーわけだから、これはほうっておけなかった。
何かにつけて接近しては庇ってやったつもりだが、不運とはうつるものなのだろうか、俺も次第に何もなくても物事がうまく運ばなくなってきた。
ちょっと距離をおこうかと思った時が何度かあったが、そういう時に限って善法寺が

「頼もしいね。いつもありがとう」

なんて、笑いながら言うもんだから、俺は、結局、仕方なく、次の日も、また次の日も、あいつに、付き添ってしまうのだっ、た。
仕方なく。


ちなみに俺は別にストーカーではないのだが、善法寺の家と進行方向が同じなのでよく行き帰りにあいつをみかける。
見かけるだけであって別に付きまとっているわけではない。
ただ、俺がちょっと視線をあいつに向けると、だいたい痴漢に遭遇していたり変な連中に絡まれてたり厄介ごとに巻き込まれているもんだから気が気で無かった。
…いっとくがこの感情は「電車の中で片思いの子を見守る酸っぱい青春」とかそんなもんじゃない。
気分は「一人で家に帰れるか見守る母」である。

そして今日も善法寺が居眠りぶっこいてる最中に変なおっさんが隣でもぞもぞやらかしてた。
どうせ痴漢だろう、そう思い近づこうとした時、黒髪ストレートがつかつかと善法寺に歩み寄って行った。
あいつ…確か特進クラスの立花…だったよな。
立花は変態野郎に何か言ってやると、徐に善法寺の隣に座った。
…あいつ、人付き合い悪いで有名だったよな。
どういう風の吹き回しだ?
善法寺とあいつって仲よかったか?

いろいろごちゃごちゃ考えているうちに、駅についてしまった。
あの後どうなったのか気になったが、次の日善法寺が女友達に「立花さんって子と友達になったよー」と嬉しそうに言ってたのでまあよしとした。
…何がまあよしなのかよくわからないが。
しかしあの立花と友達とは、善法寺はすごい奴だと思う。
恐れずに相手に真っ向付き合う姿勢とか、自分に正直すぎるところとか、そんなあいつだから不運でも周りに慕われてるし。
…俺も、友達として好いてはいるが。

友達とか、そんなもんだと自分では思っていたんだが。


俺があいつの事を友達以外の感情で以て好きだと知った時は、正直ショックだった。
なんせ、エロ本を読んでる時の事だったからだ。
女はあまり好かないが、そういう類いの本や映像はいっちょまえに読むし見る。
読まないといろいろ問題を起こすから…というのは建前で、健全男子なのだからしょうがない。
マニアックな話だが、俺はあまり胸がでかいのは好きじゃない。
小振りな位が丁度いいと思う。
だが、いつだったか小平太の奴が俺の家に来た時、俺のエロ本を見ながら
「とめ、お前女の趣味変わったな」
と言った。
「何がだ?」
と俺が聞くと
「前は短髪の貧乳好きだったのに最近ロングのデカパイ系が多い」
と答えた。
しかも買った本の女は悉く似通っている。
そして次に発せられた小平太の致命的な一言によって、俺は疑心暗鬼に陥るのであった。


「まるでいさっちゃんみたいだなーあははははは」


あはははは。ははははは。
笑うしかなかった。
笑わなければ全て認めてしまいそうだったので、笑っておいた。
小平太が帰ってから今一度雑誌の女に目を通す。
…確かに。
似てなくも ない。
だがここで肯定してしまったら善法寺に申し訳がない。
そんな目で見た事は一度も…ないはずだ。確か。
…一度くらいはあるかもしれない。
なんせ胸が大きいものだから、走るときにたわむのが…ちょっと、刺激強すぎるっつーか。
言っておくが普段は平常心を保っているし、格別気にしていない ように努力している。
とにかく、小平太の言った事は気にしないでおいた。
しかしどうしても小平太の言葉が頭をまわりまくってるもんだから来月は短髪小振りの本を買おうと決めた。
俺は今までのロング巨乳の雑誌をテープで縛って部屋の隅に投げた。
まだ読みかけの一冊だけ、手元に残して見納めにぱらぱらめくった。
ぱらぱらめくったまま、眠りに落ちてしまった。

夢の中の俺の部屋に善法寺がいた。
制服のリボンを取ると、俺にもたれかかって来た。
夢のくせに妙に柔らかい体だった。
腕を背中にまわされると、二つのでかい膨らみが胸にあたった。
本能に任せつつゆっくり押し倒すと、夢の中の善法寺が妙に生々しい声で
「留三郎、好き」
と囁いてくるものだから
「俺もだ」
と返事をした。
そして体を貪り愛し合った。


そう、愛し合った、のだ。
夢の中だったが。
ただの性欲処理ではなく。
愛情を持って、俺は接していた。
次いで夢の中ではあるが、確かに俺は善法寺の告白を受け入れた。
というか、俺の夢なのだから俺の願望に違いない、違いないというよりそれ以外の何者でもない。
善法寺にふしだらなことをたくさんさせてしまった罪悪感と、頭の中を読まれてしまうのではないかという恐怖感からその日はあいつの顔を一度も見られなかった。
…罪悪感も恐怖感もあったが、それよりも「やっぱり好きなのか、俺」という事を自覚したくなくて、悶々としていた。
別に認めてしまってもよかったのだが、今の関係がとても居心地がよかったのでなるべくこのままがよかった。
下手に恋愛感情を抱くと、関係が全て壊れてしまうからだ。
そんなものに怯えてしまうほど善法寺が好きなんだと悟ってさらに落ち込んだ。
それに、あいつは顔は結構可愛いもんだから既に彼氏なるものがいてもおかしくない。
俺は略奪愛は好きではない。
いたらそっと身を引く覚悟はできている。多分。
ああそうだ、覚悟があるなら相手が誰なのか見てからすっぱり諦めて友達と決め込んで付き合っていけばいい。
俺は思ったら行動派なので、直接善法寺に聞いた。
「彼氏いるのか?」
「いないよ」
この間1秒。
俺はこの瞬間、初めて善法寺を好きなことを赦された気がした。
そのまま「好きだ」と告ってもよかったが、ちゃんと段取りは踏んでおきたかったのでまずはあいつと親密になるよう心がけた。
なるべく積極的に話しかけたり、話しかけたり、たまにラスクおごってやったり、話しかけたり、その程度なんだが。

というのも

「仙子ー!」
ことあるごとに特進の立花がうちの教室に遊びに来る。
最初は善法寺がよく遊びに行っていたが、最近はあいつがこっちにくるようになった。
立花がくると善法寺はほぼ占領される。
横領とも言う。
行きも帰りも一緒だし、何をするにも一緒だ。
女同士は結束が固く、気がつけば俺が話してる倍の情報量を立花が持っていた。
女同士の友達同士だから別に焦る事はないのだが、妙な感覚を憶えた。
これというのも、立花が食いるように善法寺を見る時があるからだ。
そして善法寺もその目をじっと見つめて恥ずかしそうに俯く。
…なんて光景を目の当たりにした為、俺は一つの疑惑を抱えざるをえなくなった。

…付き合ってんのかな。あいつら。

もしそうだとしたら、そうだとしても、きっと友情の延長だろうとなめてかかった。
なめてかかったら昨日、泣いてる善法寺を屋上で目撃してしまい、なんとか遠回しに俺の方へ目を向けさせようと姑息にも目論んだら返り討ちにあった。
きっと今までの努力は水の泡になったことと思う。

…付き合ってたんだな。お前ら。

打ちのめされて暫く部屋でふさぎ込んでた俺だが、基本的に前向きなので暫くしたら立ち直り「立花とあいつが離れている今がチャンス」と作戦を練るべくベッドに潜り込んだ。
すると、読みかけのロング巨乳の雑誌
が枕の下から出て来た。
表紙の女は特に善法寺に似ていた。



「留三郎、好き」

夢の台詞が反復された。
本当にあいつの口で、あいつの声で、あいつの瞳で言われたらどんなにいいだろう。
そしてあいつの…



などと妄想と戯れている間に、朝を迎えていた。


今は夢止まりだが、近々俺の目標は達成される事と思う。

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