長編小説

□融点ドライアイス
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最近、ふとした瞬間に、千秋のことを考えてしまう自分がいる。それも、もう何年も前の記憶の中の千秋だ。そんな自分が嫌だった。

体育終わりで、バタバタと慌しい教室内、私はのろのろと次の授業の準備を始める。ミチちゃんは体育委員だから、まだ帰ってきていない。

「千秋ーっ!宿題貸してー」

きっと、同じクラスになんかなったから。だから、こんな風に昔のことばかり思い出してしまうのだ。もう、あの頃の千秋は、ここには居ないのに。

「机んなか入ってる」

抑揚のない、聞き取りにくい小さな声。
声変わりしてから、あまり聞いたことのなかったそれは、今では耳の中にきっちりインプットされていて。

千秋が発する言葉は、全て聞き逃すまい、と聞き耳を立てている自分は、救いようがないとしか思えない。

もう千秋のことを『千秋』だなんて呼べやしないのに。頭の中だったら、いい放題だからって気安く呼んじゃってるし。

一緒に食べた肉まんだって、放課後のドッチボールだって、千秋はもう全部忘れてるに決まってる。

『まことは、おれがまもるから』

もう全部、全部、忘れてるんだ。きっと。
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