短編小説
□ピンクの輝石
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「光谷歩美」
「はい」
「桃井春花」
「はい」
淡々と進む出席確認にも、いい加減うんざりする。この先生はいつも、全員の名前を呼名する。ただの時間の無駄だろうに。
――モモイハルカ。
名前と本人の差が激しすぎるだろ、といつも思う。
私は自分の名前が好きじゃない。だって、私にはどう考えたって不釣合いな、可愛らしい名前だから。桃だとか、春だとか、花だとか。私には似合わないキーワードが並べられた名前に、出席の度思い知らされる。名前負けって、きっとこのことだ。
いっそ私より、歩美の方が合ってるんじゃない?モモイハルカ。桃井春花。あぁ、もう自分の卑屈さに嫌気がさす。どうして私は、こんな風にしか捉えられないんだろう。
「桃井、寝んなよー」
伏せていた頭をバコっという小気味いい音と共に、若干の痛みが奔った。「はるかっ」前の席の歩美がこちらを振り向く気配がする。
顔を上げたら目の前に、出席簿を持った先生と、歩美の顔が目に入った。
「授業開始数分で寝る姿勢に入んな」
うるさい。寝てないし。
今にも出てきそうな悪態を飲み込んで、無言で見つめ返した。