短編小説

□ピンクの輝石
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黒が嫌いなんじゃない。寧ろ好きだ。好きだけど。

「黒も可愛いなぁ」

伏せられた睫毛の長さに、ため息が出そうになる。化粧っ気のない顔が、私を見る。
「オソロで付けようね、これ」
「うん」
頷く。揺れる桃色と黒のコントラスト。このヘアゴムはきっと、戒め。私と彼女を繋ぐ鎖。対照的な私たちを象徴する為のもの。

「光谷、島崎が呼んでるー」

ドアの近くから男子の馬鹿でかい声がした。
「島崎」という名前を聞いた途端、歩美の顔は隠しようのないくらい綻んだ。
「ごめん、ちょっと行ってくるね」歩美はそう言うや否や、足早に教室を出て行った。

お呼び出し、か…

華奢で小柄な歩美は、本当に可愛い。小動物のような可愛らしい顔立ち、透き通るような白い肌。そんな風貌から、歩美は昔からモテた。男女わけ隔てなく、可愛がられていた。高2になった今も、それは変わらない。
そんな彼女に、彼氏が居ないはずがない。島崎君は、つい最近歩美と付き合い始めたばかりの美男子だ。最近人気の、何とかっていうタレントにそっくりだと誰かが言っていた。

告白してきたのは島崎君からで、仕掛けたのは歩美かららしい。逐一、詳しく聞かされていたはずなのに、私はそのほとんどを思い出せない。歩美の彼氏の出来るパターンが、いつも同じだからかもしれない。

誰がどう見てもお似合いの2人。学年の美男美女カップル。

はぁ、自分でも知らぬ間にため息が零れ落ちていた。

「ただいま!」
「おかえり〜」
ほんのり顔を赤らめて、歩美が戻ってくると、始業を告げるチャイムが鳴った。
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