短編小説
□導火線
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別段、目的があるというわけではない。ただ、このまま真っすぐ家へ帰ろうという気持ちになれなかっただけだ。
そのまま学校に残って、部活に参加するという選択肢もあるにはあった。
誰にも会いたくないという気持ちの反面、今のこの心境をとにかく誰かに、直接ぶちまけてしまいたいという気持ちもあって、部活に行けば、話を聞いてくれる友人の顔もすぐに浮かんだ。
けれど、今朝から校内に漂う浮ついた雰囲気が、私をそれ以上そこに留まらせる気にはさせてくれなかった。気づけば無意識のうちに、学校の外へと逃げるように自転車を走らせていた。
みんなが浮かれるのも無理はない。
今日から始まる約四十日間の《夏休み》という名の長期休暇を前にして、沈んだ気持ちになるのは、せいぜい受験を控えた三年生くらいだろう。それに現に、数時間前までの私も浮かれきっていたのだから。
前の晩に彼に送った《呼び出しメール》を朝から何度も見直したり、隣の三組の前を通るたびに、彼の姿をこっそり捜してみたり。大掃除の最中に友達と喋っているときだって、心ここにあらずで。自分の成績表の評定すら、頭に入ってこなかった。
緊張と不安はもちろん、それに夏休みの高揚感も合わさって、私はきっと誰よりもふわふわしていた。ふわふわと、舞い上がっていたのだ。
『――俺……菊池とは付き合えない。ごめんな』
そう、それはほんの数時間前までのことで。