リクエスト小説
□僕らの化学反応式
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『ごめんなさい。やっぱり私、翔一じゃないと駄目みたい‥』
僕の唇を両手で押さえて、美雪さんは申し訳なさそうに呟いた。
僕は驚かなかった。だって掴んだ彼女の両肩は、最初から震えていたから。
これは、拒絶じゃない。はじめから、受け入れてくれてやしなかった。だからこれは、拒絶じゃない。
似たような顔、似たような背格好、似たような声、口調。瓜二つの僕と兄さん。中身はまるで違うけれど。傍目から見れば、双子と何ら違わぬ容姿をしていたのは、自他共に認めていた。
それなのに、やっぱり美雪さんは僕を愛さなかった。この場合、愛せなかったと言ったほうが正しいのか。それは、僕にはわからない。
ただ、彼女が兄さんしか見ていなくて、また兄さんも、彼女しか見ていなかったということだけは、確かだった。
最初から、僕の付け入る隙なんて、一ミリもなかった。
『僕の方こそ、すみません‥』
彼女の瞳に、じんわりと浮かび始めた涙を見ていられなくて、僕は顔を背けた。
わかっていたのに、わかっていなかった。わかろうとしなかった。あれは確か、十八の冬。