版権小説

□桜
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ーハラハラ、ハラハラ。

真っ暗な空間に浮かび上がる桜の木。
何故かそこだけが切り取られたように暗闇から別離し、散りゆく花びらがハラハラと足元に鎮座した。
…この美しすぎる、孤高の桜を見ているとある人を思い出す。

吉良先輩。

アンタの足元にも、アンタを美しく見せる為の犠牲があるのだろうか?



















『特別綺麗な桜の木の下には、死体が埋まってる。』

そんな桜にまつわる逸話を聞いたのは小学生の頃だった。
それからやたらと桜が気になり、桜の木を見る度に死体が埋まってるのではないだろうかと怯えていたのを思い出す。

綺麗な綺麗な桜。
しかし、孤独をこの木に感じてしまうのは何故だろう。
あまりにも美しすぎる故か?
…今思うと"桜の木の下に死体が埋まっている"という話は、美しいモノは何らかの犠牲あっての創造物なのだということを示していたのだろうか?

…ふと、そんな事を思ったのはあの人との待ち合わせの場所に一本の大きな桜があったから。
まだ少し肌寒い風が気味悪く頬を掠めた。
何もない真っ暗な空間に浮かび上がる白に少し朱が混ざった大木。
こんなに美しく立派に育ったのは周りに木々がなく、栄養を独り占め出来たからだろう。

「…いくら綺麗ででっかく育っても独りじゃな…。」

美しく気高い、しかし孤独な姿をあの人に重ねてしまうのは恐怖からか…?

いつか、俺もあの人の"養分"となるべく血を吸い付くされてしまうのだろうか?

…ある意味本望かもしれない。
そう思うと鼻でフッと笑った。

アンタが俺から離れて行くのならば、いっそ血なんてくれてやる。
それから肉も臓器も綺麗に食べて、髪の毛一本までアンタのモノになればいい。

そうすれば、アンタは俺を忘れないだろ?
アンタが輝くための糧になれる…なんて素敵。

「……………狂ってる。」

我に返り、自分の先輩に対する"言い分"に意見した。

待ち合わせの桜の大木に背を預け、上を仰ぐとライトアップされているわけでもないのに、花びら一枚一枚がぼんやりと柔らかく光っているように見え…無数の、優しい"光"に包まれている感覚に陥った。

危険だと感じながらも、縋ってしまう。
人を狂わすほどの魅力は桜と同じだな。
…アンタの指が、手が、息が触れた場所が熱くたぎるのが分かる。
これほどまでに、俺はアンタに狂っているのが分かってる…?


「刹那。」


聞き覚えのある声が聞こえた。
愛しいあの人の声。
仰ぎ見る角度を少し落とし、無言で姿を確認した。
暗闇の中、人影が肌寒い風と共に散る桜の花びらに紛れて浮かび上がっていた。
広く開けたシャツの間から見える赤い血痕。

…血を捧げたら俺のモノになる…?

言葉に発していないはずの問いに答えるかのように、先輩は片方の口端を持ち上げ、普段と変わらない皮肉めいた表情で…
笑った。






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