版権小説

□聖夜
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聖なる夜に
アンタと居られたら
なんて幸せ。






聖夜





「さっぶぃな…。」

少し首から下がっていたマフラーを戻し、寒さのあまり身を震わした。
授業が終わり、毎度の事ながら吉良先輩に拉致され、散々騒いだ後、解散。

「もう真っ暗じゃん…。」

で、今に至る。
空を見上げると既に星が輝き、それらをまるで鏡に映しているかのようなイルミネーションが街を包む。
そして行き交う人々は二人一組。
そう、今日はクリスマス。
恋人たちの最大のイベントの一つ。
マフラーの上部にかじかんだ手を掛けながら擦れ違うカップルをちらりと見る。
嬉しそうに腕を組み語らう男女。
…なんつーか…羨ましい。
再度空を見上げ、白い息を吐き周りに纏わり付く冷え切った空気に中和させた。
そして冷たい手を学ランのポケットに入れると何かが指先に触れる。

「…何だ?」

ポケットから現れたのは一枚の紙。
開くと見覚えのある文字。


―お前は誰と聖なる夜を過ごす?


吉良先輩の文字だ。
いつこんなもんを入れたのか…。
誰と一緒に過ごすかって?
分かってるくせに。
俺は家に帰っても一人なんだから付き合ってくれてもいいのにさ。
まぁ先輩はクリスマスを過ごす相手なんて腐る程いるんだろうけど。
紙をくしゃりと握り、再びそれごとポケットに突っ込んだ。
世間では楽しいクリスマス。
俺にとっては普段と対して大差ないクリスマス。
いつからそうなったんだろう…。
紗羅と母さん、父さんと楽しみにしていたクリスマスが一人のクリスマスになった。
愛する人と過ごしてこそ聖なる夜。
先輩…あんたは誰と過ごすんだろう。

「…アホらしい。さっさと帰ろ。」

どうせ考えても無駄なんだ。
それならいっそ考えない方がまし。
そんなことを考えていたら、この角を曲がったらマンションの玄関が見えるという所まで帰ってきていた。

「さっさと風呂入ってカップ麺でも食べて寝るかー…」

すると玄関前に見覚えのある大型バイク。

…吉良先輩と同じ車種じゃん…。
考えないようにしようと自分で言い聞かせていたのに…
すると急に後ろから首に腕が回された。

「…!?」

「よぉ、オニイサン。今日暇なら付き合わねぇ?」

振り返るとそこには先輩。
素っ頓狂な顔をしていると、フッと笑い後頭部をくちゃくちゃに掻きむしられた。

「…何て顔してんだよ。そのままじゃ寒いよな、これ着な。」

そう言って渡されたのは先輩が着ていた革ジャケット。

「先輩が寒いじゃん…!」
バイクの発進準備をしている先輩にそう話し掛けるが、後ろに乗れと合図されるだけ。
俺は渋々ジャケットを羽織り、後ろに乗る。
すると先輩が両手を掴み、自分の腰に密着するように深く俺を抱き着かせた。
…暖かい…。

「こうしてれば暖かいだろ。」

そう言ってエンジンをかけた。


先輩の存在がこの温もりを通して俺に流れてくる。
アンタに憧れ、アンタと共に過ごし、紗羅に叱咤も受けたがアンタと縁を切るなんて考えられなかった。
アンタが俺の全てだったから。
でも、いくら恋い焦がれても…この想いは届かない。
…アンタは世話のやける後輩くらいにしか思ってないだろう…?
この関係が崩れるくらいなら、いっそこの想いに鍵をつけて心の奥深くにしまい込もう。
誰にも触れられることなく、誰にも気付かれることなく俺が死ぬまで。
サンタクロースが本当にいるなら願うよ、俺が死んだらこの想いを開放する鍵を先輩にプレゼントとして渡して。
死んでからなら…嫌われたって辛くないだろ?


急に左耳のピアスに痛みが走った。
冷たい夜風に耳が麻痺したのか感覚が失われていた。
…アンタがこのピアスで俺を縛ってくれてたらいいのに…。

俺より一回り大きな先輩の背中。
背中越しに聞こえる心臓の音。
…何故か懐かしい。
アンタが俺を望めば、俺は全てをアンタに捧げるよ。
…それくらいアンタが愛しいんだ。
でもこの想いは伝えられない。


「刹那、見てみな。」

いつの間にかバイクは停車し、辺りには見渡す限りの星空が広がっていた。

「すっげ…。」

東京でもこんなに星が見れる所があったのか…。
さっきまで見ていた人工の光とは違う、美しい光。
圧倒される。

「綺麗だろ?なんでも自然のままが1番綺麗なんだ。」

夜空を見上げる先輩の横顔を見つめる。
自然のままか…ありのままの俺を見せてもアンタはその言葉を言うだろうか…。
先輩を俺だけのものにしたくてたまらない醜い俺。
いや、そんな大層なことは望まない。
俺を愛して欲しい…他の人より少しでもいいから。
すると先輩がいつもの皮肉めいた笑みで俺に向いた。
ずっとアンタの隣にいれたらな。

「…刹那。聖なる夜に一緒にいたいのは?」

ニヤニヤと先輩が右手を上げた。
時々、この人は何でもお見通しで俺の気持ちも知ってるんじゃないかと思う。
…それが真実ならやらしいな…。

「ほら刹那。」

そう言いながら上げた右手の指を数回曲げアピールする。
…分かってるくせにな…。
先輩の待っている手に勢いよく右手を打ち付け、

「…アンタだよ先輩。」

と目をつぶりながら溜息混じりで答えた。
こうやってまた先輩のペースに呑まれるんだ。
…そんなことを考えていると影が覆った。
目を開けると額をくっつけ目前で真っ直ぐ俺を見る先輩の漆黒の瞳。

「…!?」

「…もっと素直になれよ。」

そう言うと俺にキスをした。



最高のX'masプレゼントだよサンタクロース。



→後書き。
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