版権小説

□ブラックシープ
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めぇめぇ 黒羊さん
毛布はあるの?
あります あります
いち・にぃ・さん
ひとつは あったか ご主人様に
ひとつは あったか 奥様に
そしてひとつは古径のむこう
寂しがりやのぼうやのために









ブラックシープ









「マリーはご機嫌だな。」

庭で最近お気に入りのメイドのベスとマザーグースを口ずさむ。

「新しい唄を覚えられたそうですよ。」

そう言いながらシャワーを浴びた俺にふかふかの真っ白いタオルを渡す。

「…唄ねぇ。」

一通り髪を拭いたつもりが前髪から滴が落ちる。
するとリフの大きい手が頭に掛かったタオルを動かす。
…少し痛い。

「…痛いぞ、バカ力。」

文句を言ってやる。
するとタオルで見えないけれどリフがくすっと笑ったのが分かった。

「風邪を召されるよりいいでしょう?」

そう言いながら全身を拭きはじめる。
正論すぎて反論も出来ない。
…こどもっぽいが小さな抵抗をする。

「…ふん。」

すると、ふいに感じた背中の痛みに忘れていたはずの景色が浮かぶ。

「……リフ、背中が痛い。」

「背中ですか?」

リフが背中の傷をまるで割れ物に触るように触れる。

「…傷は…ありませんね。」

「そうか…。」

時々訪れる"痛み"。
忘れようとしても忘れられない傷痕。
何もないはずなのに…"痛い"。
"忘れたら"いい。
分かってる。

「ランチは久々にお庭に用意致しましょうか?」

ふいに後ろからリフが背中の傷痕を隠すようにタオルを掛ける。
そのとき見えた手を思わず掴む。

「…カイン様?」

俺の汚れた世界の中でマリーと、…お前だけが綺麗。
触れた部分から汚れきった俺でも綺麗になれる気がして…。
掴んだ手の平に口付け、慈しむ。
綺麗なお前は地獄では恰好の獲物になるだろうな。
でも誰にもやらない。
血肉さえも俺のモノだから。

…傲慢な俺。
でも不安なんて微塵も見せず敢えて不遜な態度で言葉にする。

「裏切ったら死んでやる。」

本当は怖くて怖くてたまらない。
お前がいなくなったら…
お前が裏切ったら…
そんなことが日々、ふと頭によぎる。
するとリフは優しい口調で、俺が不安になったら何度も言わせた言葉を繰り返しくれた。

「…私が貴方を裏切るとお思いですか?」




めぇめぇ黒羊さん。
あったか毛布は契約の証。
さいごのひとつは寂しがりやのぼうやの為に
自分の羊毛を捧げましょう。








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