版権小説

□肩甲骨
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肩甲骨って羽根の退化した姿って知ってた?







肩甲骨









「ねぇ、カイン兄様。人間にも羽根があったんですって!」

突然語りかけてきた愛らしい我が妹。
俺は長椅子で、本の文字に向けていた視線をマリーに移す。

「羽根…?いきなりどうしたんだ?」

マリーは後ろを向き、肩甲骨辺りを指差した。

「肩甲骨ってなんで出っ張ってるんだろうって思わない?
この出っ張りは昔羽根が生えていた証拠なんですって!」

瞳を輝かせて俺に話すマリー。
可愛い奴め。と思ってしまうのは妹馬鹿だからだろうか。
本を横に置き、膝に肘をつきながら尋ねた。

「…どこでそれを?」

するとマリーは持っていた絵本を出した。

「これに書いてあったの!」

絵本を受け取り、パラパラと見る。
所謂、お伽話というかファンタジーの絵本だった。

「…マリー。これは作り話だ。」

「知っていてよ。でも素敵だと思わない?
私にも羽根があったの!」

そう言うとスキップをしながら上機嫌で俺から離れていった。
残された絵本を見つめ、再び手に取る。

…羽根ね。
人間は皆天使だったとでも描いてあるのか?

そんなことを考えていると、リフがお茶を運んできた。
リフは絵本に気がついたのか、紅茶をいれながら

「…絵本、マリー様ですか?」

と言った。
俺は膝に絵本を広げ、簡単にだが読んでいる。

「そう。…昔は人間に羽根があって、それが退化したものが肩甲骨らしいぞ。」

リフがくすっと笑った。

「可愛い話だろう?」

俺が皮肉感を匂わせながら言うと、

「私もその話は聞きましたよ。
医学生の頃に友人からですが、納得がいくとまで言われました。」

「そいつは余程おめでたい奴なんだな。」

リフはこちらにティーカップとお菓子を持ってきながら苦笑していた。

「でも、素敵じゃないですか?」




肩甲骨が本当に羽根が退化したものならば、俺にもある。
忌ま忌ましい傷痕と共に、この背中に…。


「…俺にも羽根があったとしたら、きっと黒い堕天使の羽根だな。」

と俺は小さな声で呟いた。
リフは

「…何かおっしゃいました?」

と答えたが、

「いや何も。…相変わらず美味い紅茶だ。」

とだけ返した。





"カイン"という罪に彩られた名を持った俺。
そんな俺にも神は羽根を与えてくれていたのだろうか…?









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