版権小説

□BIRTHDAY
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「HAPPY BIRTHDAY」
最後に言われたのはいつだったのだろうか?





BIRTHDAY




いつも通りの朝。
目覚ましが鳴り一人で起床。
お湯を沸かして食パンをトーストに入れ、それらができるまで顔を洗い制服に着替える。
気付けば出発15分前。
一言も発することなくパンを頬張り、たっぷりミルクを入れたコーヒーを一気に飲む。
用意ができたら散らかったこの部屋とはしばしの別れ。
外に出ると、目に痛い日差しが刺さる。

「まだあちぃな…。」

本日最初の言葉。
今日は幸先がいい。
天気がいいから。
秋晴れってやつ?
…いや、まだ早いか。
そんな事を考えながら学校へ急いでいると急に肩をポンと叩かれた。

「よぉ、刹那。」

吉良先輩だ。

「先輩、はよー。」

本日最初の会話。
今日はツいてる。
初めて会ったのが先輩だったから。
特別な日だから神様からのプレゼントか?
自分の応えにふふっと笑ってしまった。
すると隣で歩いてる先輩が肩に肘を掛け、全体重を乗せてきた。

「何笑ってんの〜?オニイサンにも教えてくれるかなぁ〜?」

「痛いって!」

ニヤニヤしながら意地悪く俺を弄る先輩。
やっと肩を開放してくれた。
まだなんか乗ってる感じ…。

「そういや刹那、今日23時に例の場所集合な。」

「え。真夜中じゃん!」

「しょうがねぇだろー。」

「俺ねみぃよ…。」


−キーンコーンカーンコーン…

気付けば校門。
つかチャイム鳴ってるし!!
吉良先輩がいきなり俺の苦し紛れに朝セットした頭をぐしゃぐしゃに掻き回す。

「全く刹那はお子ちゃまだなぁ〜今日は直帰してお昼寝でもしてな。絶対来いよ!」

「先輩…!!!!」

そう言って遠ざかる影。
全く勝手だよなぁ…
この頭もどうしてくれんだよ。
俺にだって予定っつーもんがあるのに。
…いや、ぶっちゃけないんだけどさ。

今日は俺と紗羅の生まれた日。
誰も祝ってくれない悪夢の日。

でもやっぱり自分にとっては特別な日で。
でもあえて誕生日をアピールはしない。
なんか不憫じゃん?
…家族以外に誕生日を覚えていてくれる人なんているのだろうか…?


−バフッ。

何故か吉良先輩の言った事をきちんと守り学校から直帰し、すぐベットに突っ伏した。
眠い…
父さんいつ帰るんだ…
最近出張が多い…忙しいんだ。
父さんは今日の日を覚えていてくれているだろうか。
枕に伏せていた顔を半分だけ移動させ、電話のある場所が見える位置で静止した。
鳴らない電話。
期待はしない。
何もなかった時に期待しただけアホらしいから。

時計を見る。
約束の時間まではだいぶあるな…。
先輩が言ったように一眠りしよう。
どうせまたどうでもいい話を加藤がし出して朝まで騒ぐんだから。
そんなことを考えているうちに眠りに落ちた。






−ピンポーン。

…ん?
チャイム?
今何時…?
開きかけた瞼の奥にある色素の薄い瞳で時計を捜す。
…23時45分。
23時45分!?
焦って起き上がり座位になる。
やっべー!
先輩にどやされる!!!!!
急いでその辺にあったジーンズとTシャツに着替える。

ピンポンピンポンピンポン

ア゙ー!!!うるせぇ!
今それ所じゃねぇのに!
若干苛々しながら雑に玄関を開ける。

「こんな夜中に誰…」

「よぅ、刹那。」

目の前にいたのは皮パンに黒いTシャツ、髪は解いてくわえ煙草をした吉良先輩。
…悪そう…いやいやいや、そうでなくて!
一人ツッコミを脳内で繰り広げ、我にかえる。

「先輩…!?」

「お邪魔するぜー。」

そう言いながらずかずかと部屋に入る。

「え…なんで…!?みんなは?」

すると立ち止まり、振り返り様にいきなり煙草の煙をかけられた。

ゴホゴホゴホ…

「何を…!」

急にかけられた煙は否応なしに目や鼻や口に直撃する。
ただでさえ苦手な煙草の煙に噎せる俺。
すると吉良先輩が煙草をくわえ直し、口元から離した。

「メインがいなきゃバースデーパーティーする意味ないからな。」

パーティー?
…バースデー?

「今日誰かの誕生日だったの!?」

俺は驚き聞き返す。
すると先輩は左手に持った箱を取り出し、俺の目の前に差し出した。

「何言ってんだよ。おまえの誕生日だろ?」

条件反射で差し出した手に箱が置かれる音がした。

「…え?」

先輩はあの、いつものニヤニヤした顔で俺を見る。

「でも俺誕生日教えてな…」

「俺がお前のことで知らない事なんてないだろ?」

…一体どこからが本気の発言なのか。
それに俺の全てを知ってるなんて有り得ないじゃないか。
所詮他人だろ。
血縁でさえ俺のことを理解できないのに。
でもそういう所、嫌いじゃない。
しかし…素直に感動してやるもんか。

「とか言いながら紗羅を口説こうと調べたついでだったんじゃない?」

心にもない言葉を笑顔で冗談っぽく言う。
否定されるのを待つ卑しい俺。
先輩は一瞬無口になり、口端がニッと上がる。

「…バレたか!いやぁ〜双子って便利だよなぁ〜。」

いつものあっけらかんとした口調で軽く言われた。
…マジか。
言わなきゃよかった。
俺最悪じゃないか…
やる瀬ない自分に腹が立ち、持たされた箱の形が力を入れた手で崩れる。
すると…優しい声が降ってきた。

「嘘だよ刹那。俺は<<お前>>の生まれた日を祝いたいんだ。」

黙る俺。
もう下手な事は言わない。
ボロがでるから。
先輩は頭を上げない俺から一旦離れ、勝手に台所に行き小さめの皿とフォークを用意している。
何してんの先輩…俺かなり傷心してんだけど…。

「刹那、その箱持ってこい。」

手元のへちゃげた箱。
俺は先輩にそれを渡す。
開いた蓋から覗いたのはイチゴののったごく普通のショートケーキが1カット。

「二人で祝うんじゃケーキでも無きゃ寂しいかと思ってさ。
さっきコンビニで買ってきた。
ま、カットケーキ1つしか無かったんだけど。」

申し訳なさそうに言う先輩が俺をソファーに座らせる。
先輩は時計を確認し、

「何とか間に合ったな。」

と俺に微笑んだ。


「HAPPY BIRTHDAY、刹那。」


時刻は23時59分。
まだ、16年前に俺が生まれた日。



神という存在が実在するのならば、今日という日を感謝しよう。
父さんと母さんを出会わせてくれてありがとう…、
俺と紗羅を誕生させてくれてありがとう…。

そして、吉良先輩に出会わせてくれて…本当にありがとう。



「HAPPY BIRTHDAY、俺。」







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