版権小説

□キス
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よくお伽話に、お姫様は王子様のキスで目覚めるって話があるでしょう?
僕もいつか、誰かの王子様になれるかな?



キス



刹那が星幽界に行ってから4日。
俺はこうして魂のない刹那の躯が安置されている祭壇のすぐ側に座って一日の大半を過ごす。
眠る時も。
一人で。

ふと、刹那の左頬に触れた。
暖かい。
…生きている証。
この行為を数時間置きに行っている。

先ほどまでは九雷ちゃんがいた。
刹那が心配なのだろう。
彼女は俺に部屋も与えてくれたし、何かと気を遣ってくれる。
しかし俺は、ここで刹那といるから、と断った。

−刹那を守るために。
いや、違う。それは建前だ。
…俺が怖いから、離れられない。
刹那を失うのが、堪らなく怖い。

刹那の頬に触れていた手を明るい茶色の前髪に移動させた。

「前髪邪魔だろ?」

返事はもちろん聞かずに長い睫毛の上に掛かった髪をはらうと、形のいい強気な眉が現れた。
すると急に刹那の百面相が脳裏に浮かび、思わず吹き出してしまった。
刹那は実によく表情が変わる。
加えて嘘を付けない性格で、大分人生損してきたんじゃないかと思う。
実際吉良朔夜として出会ってからはよく不良には絡まれていた。
黙っていればハーフということもあり深窓の美少年と言っても通じるだろうのに…。
刹那はそのくるくるとよく変化するキレイな顔を俺にいつもも向ける。
<<俺>>をこんなにも真っ直ぐに見る人間はコイツぐらいか…。
アレクシエルの生まれ変わりが無残な死を遂げる度に自分も同じ時間を生き、その末路を見てきた。
定められた宿命を変えることは容易ではない。
その宿命に抗ったこともあったが…結局は無残な死を迎える。
どうあがこうとも、神に定められた宿命を変えることは出来なかった。
刹那も酷い死を遂げるのだろうか。
俺は刹那の眉から目尻にかけて指先でなぞり、刺さっている刀に手を付けるのではなく、首に手をかけた。
少しでも体温を感じたかったからだ。
−どうせ<<死ぬ>>のならば楽に…。
…駄目だ。
俺に刹那は殺せない。
いつからこんなにもコイツに固執してしまったのか。
俺は怖いんだ。
アレクシエルの生まれ変わりの中でも刹那は特別だった。
この世界自体も楽しかった。
ずっとこのまま続けばいいと思うほどに、吉良朔夜としての人生は…愛しい。
それもお前がいたからだな、刹那。
首から手を引き、少し上から刹那を見た。
お前は帰ってくるって信じてるけど、流石に刺せって言われた時は戸惑ったんだぜ?
お前の俺への信頼あってのことだろうけど、生きた心地がしなかった。
俺に殺させんじゃねぇぞ?
早く戻ってこい、刹那。



そっと、刹那の唇にキスを落とした。
俺がお前の王子ならこの儀式で目覚めるのに。
…まぁ戻ってくるのを待つしかねぇか。

−俺はお前の王子様にはなれないんだな…。








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