版権小説

□風船
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「ほら、ウォルフィ。二人だよ。」

ヴィッグは高く昇っていく真っ青な空とは対象的な真紅の風船を見上げながらボクに言った。


風船


「ただいま、遅くなったね。今ご飯の準備をするから。」

アナタは帰ってきたらいつもボクにそう語りかける。
ボクはアナタのことが大好き。
優しい所もボクを構ってくれる所も向けてくれるその寂しい笑顔も。
アナタがいないときは今みたいに玄関の扉が開くのを今か今かと待ち続ける。

−ガチャ。

あ!!帰ってきた!!
扉を開けたのはローレンスだった。
彼はボクに気付いたらしく
「やぁ、ウォルフィ。」
と、微かな笑顔をくれた。

ボクの世界には彼を含め、エイドリアン・ヴィッグの三人しかいない。
エイドリアンは飼い主兼ボクの想い人。
ヴィッグは友達。
ローレンスは…彼のことはまだよく分からないけれど、恋敵かな。
でもボクはローレンスのことも大好きなんだ。
恋敵なのに彼を許してしまうのはボクらがどこか似てるからかもしれない。

ボクの躯がフワっと浮いた。
ローレンスが床に膝をつき、ボクの目と見合わせるように持ち上げたのだ。
その時キラッと彼のチョーカーが光ったのを目で追った。

「…ごめんよ、ウォルフィ。まだ君の鎖は返せないんだ。」

そう、彼がチョーカーにして身につけてるのはエイドリアンがボクにプレゼントしてくれるはずだった鎖。
彼に抱えられ、ボクは寝室に連れて行かれた。
そこにはエイドリアンがヴィッグのために買ったメリーゴーランドのオルゴールが1番目立つ場所に置いてある。
ボクはこのオルゴールの音が大好きだ。
オルゴールを楽しそうに鳴らすヴィッグも好き。
ローレンスは真っ白な部屋の真っ白なベットに腰を降ろし、ボクを離した。
そして彼は吸い込まるようにシーツに倒れる。
ボクは驚いて彼の投げ出されている手の指を舐めた。
反応が欲しかったからだ。

「…ウォルフィはいいな。君になりたいよ。」

…ボクに!?
彼は何を言っているんだ?
ボクは君になりたいよ。
ボクはいくら願ってもエイドリアンとは結ばれないんだよ?
けど君は結ばれただろう?
しかも君より長く一緒にいたボクへの笑顔より断然君への笑顔の方が自然。
それは君に全て許してるからだろう?
ココロもカラダも。
カコも。


「君のようにエイドリアンに鎖に繋がれていたい…エイドリアンといたいから…。」
ローレンスは天井を見ながら言った。
誰に発するというわけでもなく。

…ねぇ、ローレンス。
君はエイドリアンから離れていくの?
カレには君が必要なのに。
ボクじゃ駄目なんだ。

ローレンスが急に起き上がり、ボクの頭を撫でた。
彼なりの、とびっきりの笑顔で。

「じゃあね、ウォルフィ。」


そう言って本心を聞かせてくれた数日後、
ボクとヴィッグの前で彼は連れて行かれた。
幸せな日々の終焉を意味していた。




…エイドリアンが拘束されてからボクはヴィッグと一緒にいる。
ボクの深緑の首にはローレンスが付けていた鎖で作られた首輪がある。
その首輪を嵌められた時、何となく君がどうなったか理解した。

−その二年後、エイドリアンは飛び降りた。

ねぇ、ローレンス。
君はこんな結末を予測していた?
君が消えてからエイドリアンは君のことばかり。
君の望んだ通り二人は鎖で繋がれてる。
いや、鎖以上の頑丈な何かで。
そしてエイドリアンの肉体までもが君のものになった。

ボクに残ったのは…?

−二人の記憶だけ。





「あー。もう太陽に吸い込まれちゃった。二人は今幸せかな?」

ヴィッグはボクに語りかけるように言った。


−赤い風船は太陽に向かって空という大海をたゆたう。
その生命尽きるまで。






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