版権小説

□ピアス
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「…イテェよ!!!」

情けない俺の発言を追うようにプツッという無機質な音が聞こえた。
いや、聞こえたのは俺にだけだろう。

「我慢しろよ刹那。」

そう言いながらライターで熱し消毒した安全ピンをグリグリと耳たぶの奥へと進めていく。
これがあと二回続くと思うだけで涙がでてくる。
いや、すでに涙目なんだが。


ピアス


一つ目の穴を空け、リングのピアスを入れ消毒してくれた先輩のシャツの皺が目の前で左右上下に動いている。

「…どうだ?」

急な問い掛けにぼーっと先輩の胸元を見ていた俺は我に還った。

「へ?…あぁできたの!?」

阿呆っぽい声を出してしまった…。
すると先輩が鏡を見せてくれた。

「三つな。上手いもんだろ。」

目の前のその人は普段掛けない眼鏡を外しながらニコニコと自慢げに言う。
確かに均等だ。
しかしあえてここはノらないことにする。

「普通じゃん?」

自分の左の耳たぶを少し引っ張りながら言うと、鏡越しに映る耳たぶにぬっと俺より一回り大きな手がのびてきて先ほど空けた穴のピアスをぎゅっと摘んだ。

「ひぃ…!!!ちょ、何すんだよ先輩!!!」

「お前がピアス空けて欲しいっていうから空けてやったのによぉ〜」

進行形で耳たぶは摘まれ中。
半端なく痛い。

「イタイイタイイタイ…!!!ていうか先輩が空けろって言ったんだろ!?しかも自分に空けさせろって!!」

俺の耳たぶを離してクツクツと笑う黒髪の人。
まだじんとした痛みの残る耳たぶを両手でガードするように包んだ。
もちろん涙目だ。
痛いと小声で文句を言っていると

「でも決めたのはお前じゃん?」

といつもの若干人を小ばかにしたようなニコニコした顔で言う。
…まぁそうなんだけど。
だって先輩と選んだピアスに先輩に空けてもらった穴。
ピアス穴を空けて貰うって特別な関係だって聞いたことがある。
身体に穴空けるんだぜ?
しかも他人にしてもらうとか。
そりゃ特別な関係だろ。
それは愛情の証だったり友情の証だったり人それぞれらしいけど。
じゃあ俺らの関係って…?

「おい刹那、行くぞ?」

気付いたら先輩は俺らのたまり場の工場の入口で俺を呼んでいた。

「待ってよ先輩!」

関係なんてどうでもいいじゃないか。
今のこの関係が続くなら。
俺は入口で待ってる先輩に向かって走って行き、先輩に向かって無邪気な笑顔で言った。

「どう?男前度上がっただろ?」

すると俺の髪の毛をグシャグシャにしながら

「そりゃ俺が空けたんだからな。」

と自信満々に言い放った。



俺らの関係なんてピアスで図れるもんじゃない。
ただ言えるのはこのピアスと空けた時の痛みが、アンタと俺とをこの先も繋げていてくれる<<証>>になるってことかな。






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