短編

□天国恐慌
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一言で表そう。
今現在、ここは、"大恐慌"である。


「太子愛してるーっ!」

「私もだぞ閻魔ぁー!」


「妹子、そんな奴に構ってないで僕と…」

「鬼男は黙ってて。ねえ曽良、僕と一緒に遊ぼう」

「太子さんみたいなこと言ってないでどうにかしたらどうですか、僕は今家康を起こすので忙しいんです」

「うー…ん、むにゃむにゃ…」


「芭蕉殿、拙者は貴方を」

「ダメだよ半蔵くん、忍が簡単に想いを悟らせるものじゃあない」


冷や汗ダラダラなのは私とワトソンくんの二人だ。
皆自分の恋人じゃない人たちに言い寄ってる。
正気に戻ったときどうなるのか、考えるのも恐ろしい。

何故こんなことになったのか、
原因を説明するには、少しだけ時間を遡る。





≪天国恐慌≫





きっかけは太子くんの提案だった。


「もし皆が今好きな奴以外を好きになったらどうなるんだろう」


多分、本当に只の思いつき。
いや、勝手に人の考えを決め付けたらいけないよね、ごめんなさい。
本当私ってダメな人間だ、死んで天国に来てもやっぱりダメなゴミ人間だ。

おっと話がずれた。
それで、その提案に興味を示した閻魔さんがちょいちょいと指を動かして(多分変わった力を使ったんだろう)、
こうなった。
ちなみに私とワトソンくんは避難。
家康くんは疲れて眠っていた。

閻魔さんは太子くんを、
太子くんは閻魔さんを、

鬼男くんは妹子くんを、
妹子くんは河合くんを、
河合くんは家康くんを、

半蔵くんは松尾さんを、
松尾さんは半蔵くんを。

どうすればいいのかと焦る私の隣で、ワトソンくんが引きつった笑みを浮かべている。
とにかく、閻魔さんに言って元に戻してもらわないと。


「え、閻魔さん」

「なに?オレ今太子と遊ぶのに忙しいんだけど?」


何故だか結構鋭くにらまれてしまったのだが、私は勇気を出して言う。


「元に戻してあげてくれないかな」

「どうして?いいじゃん、皆楽しそうだし」

「…え…」


まさかそんな言葉が返ってくるなんて思わなかったから、私は言葉を返せなかった。
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