献上
□均衡破壊!
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君は褐色の膚に、銀色の髪。
蒼い瞳。
オレは死人よりも真っ白い膚に、漆黒の髪。
紅い瞳。
まるで正反対。
相容れることのないような、対になる色を持つ君とオレ。
君は獄卒、オレは支配者。
相容れることのない、決められた宿命。
破ってはならない均衡を前に、オレはとても無力だと実感した。
ああ、そうだ。
叶うことはない。
この恋は、叶わないのだから、早く、
早く、忘れなくちゃ。
≪均衡破壊!≫
「次の方、どうぞ」
淡々と仕事を進める彼の横顔を盗み見る。
ムカツクぐらい整ったその顔は、やはりオレの贔屓目なしでも格好よく見えるらしい。
呼ばれ、案内の鬼に連れられてここへ来た若い女は、
鬼男くんのその美貌を前に、顔を赤く染めていた。
ちくり。
胸が、痛む。
それを消そうと、胸へ手を置く。
ああ、何を傷つくことがあるのだろう。
彼はオレのじゃない。
オレと彼は相容れないのだから、諦めるほかないのだから、
ほんのわずかな希望さえ抱いてはならない。
オレは魂の裁きを下す者。
誰か一人に固執することは、赦されないのだから。
「はい、貴女も天国。今まで頑張ったね」
「ありがとう、ございます…」
にこり、と普段通りの笑みを向けて、女を天国へと促す。
小さくお礼を言った女は名残惜しそうに鬼男くんの顔を見ながら、天国へと昇っていった。
ちくり。
また、胸が痛む。
ああ、どうせなら感情なんてもの、無ければよかったのに。
淡々と死人を裁き続ける人形でありたかった。
秘書である彼に恋慕の情を抱くなど、あってはならないことだったのだから。
こんなに苦しいなら、いっそ、何もかもを忘れたい。
涙が、出そうだ。