献上

□彼と私の秋
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運動の秋、読書の秋、食欲の秋、
色々な言葉で人は"秋"を表現する。

私にとっての秋は、四季の一つ。
句を詠む私にとって、とても暖かい季節。
春や、夏、冬も好きだけれど、私は秋が一番好きだなあ。
だって大好物のきのこが食べれるし!

それにほら、蟋蟀や鈴虫、
虫の音が、心地良いでしょう?





≪彼と私の秋≫





夜、耳を澄ませてみれば、秋の虫たちの大合唱が聴こえてくる。
私にはそれが心地良くて、なんだかとても穏やかな気持ちになれる。

リーン、リン、
チロチロ…
嗚呼、秋がきたんだなあって、実感させてくれるんだ。

何だか良い句が浮かびそう。


「なら詠みなさい、早く」


はあ、
溜息をつきながら、机を挟んだ向こう側から私を睨みつけてくる曽良くん。
その偉そうな態度に、私はむっとする。

いつもそうだ。
彼は、曽良くんは私の弟子なはずなのに、
師匠であるはずの私をまるで小間使いのように扱き使う。
その上態度はでかくて、師匠を敬う心すらないなんて、
まったく、私を何だと思ってるのさ。


「弟子の癖に…」

「何か言いましたか、芭蕉さん」

「なんでもない!」


シュキラリーンと左手を断罪チョップの形に構える彼に、私は慌てて首を横へ振った。

ああ、怖い。
まったく恐ろしくて敵わないよ、何で曽良くんは私の弟子なんかやってるんだろ。
私が嫌いなら、旅のお供を頼んだ時に断ってくれれば良かったのになあ。
私が嫌いなら、別の人に師事してもらえばいいのに。

そこまで考えて、やめた。
だって、曽良くんが私以外の人のところへ行っちゃうなんて、考えたくもないもの。
意地悪でも、態度がでかくても、
私は彼と一緒がいい。

なんて、いい年して女々しい自分。
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