献上

□彼を護るその為ならば
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美しく気高く強く、そして弱い人。
ファミリーを纏め、頂点に君臨し、真面目な顔とふざけた顔を使い分けて、
疲労が溜まっていることも、苦痛も悩みも全て隠す。

強がって強がって、
周囲との壁を作り上げて、孤独に涙する悲しい人。

その涙を見た瞬間、僕は心に誓った。

この人を、必ずこの手で護ろうと。





≪彼を護るその為ならば≫





とあるところに存在するマフィアのボス、太子。
そしてその部下であり右手と呼ばれる僕、妹子。

周囲からは命を狙われ、ファミリー内にいても心安らぐ時間は少ない。
唯一心開けるのは、少数の幹部のみ。

それでも太子は、僕にも、その幹部たちにも本当の意味で心を開いていないのだろう。
それが僕には悲しくて、
それでいて、安堵したのだ。

彼は誰も愛さない、
彼は誰の愛も受け入れない、
彼は総てを疑い存在し、
そうして仮面を被って笑う。

それならば僕はそれでもいい。
只、この手で彼を護ることができれば、それで。


「太子、河合から任務結果報告の書類が届きました。」

「ん、そこ置いといて妹子」


手元にある書類から目を離さず僕に言い、下がれ、と手振りだけで命令する。
僕は腰を折り、頭を深く下げてから部屋を出た。

扉を閉めた瞬間、背筋を襲ったのは、不快な寒気。

この妙な感覚を、僕は知っている。
敵マフィアとの抗争で嫌でも浴びる、それは、

殺気だった。


「っ太子!?」

「なっ…」


急いで扉を開ければ、太子のすぐ傍には、見知らぬ顔。

僕はすぐさま懐から拳銃を取り出す。
しかし、そいつは太子に銃を向けていたから、僕は動けずにいた。
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