献上
□そして今宵も制裁の剣を翳す
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何がいけないのか、
と、考えてみる。
太子は僕のものだ。
それを皆も解っている、はず。
馬子様だって容認してくださっている。
大っぴらに恋人宣言もしている。
それなのに何故、
ああも太子を狙う輩が多いのか、について。
まあ、太子は行動言動うざくも可愛いし、
着飾らない存在感があって、
民のこともちゃんと理解しようとしていて、
支持が高いのは、解る。
それでも解せないのは、身の程知らずな輩の存在。
僕は隣で眠る太子の髪を梳く。
つい先ほどまで泣きじゃくり、僕の腕の中で震えていた可愛い人。
彼を泣かせたのは、不逞の輩。
怒りで我を忘れるところだった。
「…太子」
貴方を傷つける存在があっていい筈が無い。
僕は貴方を護るためならば、喜んでこの身、紅く染め上げよう。
「行ってきます、太子」
≪そして今宵も制裁の剣翳す≫
暗黒の月夜、
僕は片手に剣を持つ。
「…ひっ…い、妹子さま…っ」
「ああ、どうしたんだそんなに怯えて?」
にこり、と微笑めば再度零れる悲鳴。
目の前で情けなくガタガタと震える男こそ、太子を傷つけた愚か者。
僕を欺けると思ったか、
なんて愚か、そしてなんて、
「可哀想なひと」
「うあ…っあっ」
カラン、
握っていた剣を地面に落とす。
その音に反応して、男の身体が跳ねた。
さあ、喰らいつけばいい。
餌をやったんだ、
牙を剥いてくれないとつまらないだろう。
簡単に屠ってやると思ったか?
ありえない、
太子を傷つけた罪は、そんな軽いものじゃあない。
目を細め見つめれば、男は震えながらこちらを見返す。
そしてあからさまに隙を作ってやれば、
男は僕の落とした剣を手に取った。
「う、わああああああっ!!!」
振り翳し、迫ってくる。
ああ、それでいい。
僕を殺そうと立ち向かえ、
そして、
絶望しろ。
「それで終わり?」
「あ…あぁっ…」
鈍足な男の動きなど、目を瞑っていても避けられる。
軽々しく避け、唯一の武器を奪ってやれば、男は再び震えだした。
万に一つでも僕を殺せると思ったか。
愚かなヤツ。
後退る男に一歩近づけば、地に手をついて頭を下げ、
あろうことか命乞いをはじめた。
「もっ申し訳ありませ…っどうか、どうか命だけは…っお許しください…!!」
涙すら流すその姿に、僕の中の何かがキレた。