献上

□通訳の苦難
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僕はハリスさんが好きだ。

ハリスさんは可愛い。
旧約聖書のアダムとイヴにちなんで巨泉と名付けたり、
キャッホーと言いながら年甲斐も無くはしゃいだりするあのオッサンは何より可愛い。
巨泉が自爆した時に全裸になったハリスさんを押し倒しそうになるのを必死で堪えた事は、記憶に新しいことだ。

僕がそんなことを考えているだなんて微塵も知らないハリスさんは、僕の心を抉るような行動ばかりする。

それはもう、
今現在も、そうなのだ。





≪通訳の苦難≫





僕は今、ハリスさんに日本語を教えている。
元々僕は日本人との通訳としてハリスさんに雇われた身だ、
ハリスさんが自ら日本語を覚えたいと言い出した時には僕はもう用無しになるのだろうかと泣きたくなったが、雇われ身としては断るわけにはいかない。


「フム…では、私のナマエ、Townsend Harrisはニホンゴだとどう発音する?」

「そうですね、タウンゼント・ハリス…となります。」


フム、
と、納得したように頷いたハリスさんは、小声で何度か自分の名前を繰り返した。
そんなハリスさんを眺めながら、僕は不謹慎なことばかり考えている。

ハリスさんが日本語を流暢に話せるようになったら、僕は用無し。
ハリスさんとの接点も関係もなくなる。
会えなくなる。
なら、そうなる前にいっそ、

滅茶苦茶に犯してしまおうか。

泣いて抵抗されても拒絶されても力で押さえつけて、
嫌われればいい。
憎まれればいい。
ハリスさんの心を占めるのが、僕への憎悪だけになればいい。
会えなくなるのなら、
僕の気持ちが伝わらないのなら、
受け入れてもらえないのなら、
いっそ、


「じゃあ、君のナマエは、どう発音すればキレイなニホンゴに聞こえるか?」
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