【秋伏】

□アンドロイドは××の夢を見るか 4
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ホバーカーはビルの上を飛びながら、青の組織へと向かっていた。

「お前は人の話を全く聞かないときがあるよな…」

弁財が助手席に座る秋山を横目にため息をつく。

「悪いな…」

秋山は申し訳なさそうな顔でそう答えた。

「悪いですんだら、そこらじゅう平和だな」

「う…」

弁財は毒づきながら煙草に火をつけて紫煙を浮かばせる。
ホバーカーは自動操縦に切り替えられていた。

どうするつもりなんだ。
視線だけで問われて、秋山は曖昧な笑みを浮かべる。

「…あの、なんかすいません、いきなり…」

そこへ後部座席にいた問題の種が口を開いた。

「あぁ、いや…気にしないでください…こっちの問題ですから」

いつもの愛想笑いで秋山が言う。
何が気にするななのか。
弁財は長く紫煙を吐いた。

「それで、あなたは何故…」

秋山は後ろを覗き込みながら質問をする。
警戒は怠るべきではないと、弁財は秋山を横目で確認した。
秋山の手がハーネスのプラズマガンに触れている。

「…仁希の指金だと思われていても、仕方ないですかね…」

No.00は表情のない顔で言った。

「信じてもらえないかも知れないですけど、俺は俺の意思でここにいます」

アンドロイドが自分の意思でだって?

弁財は眉根を寄せた。

それは不良品と変わらないのではないだろうか。

アンドロイドは主人の命令に絶対服従するのが主な人形だろう。
いや、仁希の言う完璧なアンドロイドというのは人間と同じ存在だというわけだから、ここにいるNo.00が自分の意思を尊重しているのは頷かざるを得ない訳だが。

「…あんたは、何が目的なんだ?」

弁財はさほど吸わないうちに短くなってしまった煙草を灰皿に押し付けてそう言った。

「……、よく、わからないんですけど…」

No.00は歯切れの悪い口調だ。
アンドロイドの仕様をそういう風に組み替えることも可能だし、この喋り方が何かを物語っていると決めつけることはできない。

「よくわからないだって?」

弁財は笑いの混じった声で聞き返した。
なんなんだ、その返答は。
意を決してここに来たからにはそれなりの明確な理由と言うものがあるはずだ。
演技だとか思っているわけではないが、濁すようなわざとらしさには疑念を抱かずにはいられない。

「…、すみませんが、明白な理由がない限り貴方には…」

秋山は申し訳なさそうな声でそう言った。

「明白な理由…」

No.00は無表情のまま俯く。
人形のように整っている顔はどことなく仁希に似ている。
おまけに眼鏡などをかけているのだからおかしい。
わざわざアンドロイドの視力を落とす必要は無いだろう。不必要な装飾品はオプションなのだろうか。

「…俺は、たまに自分がなんなのかわからなくなるんです」

No.00はぼそぼそと小さな声で話始めた。

「アンドロイドであることはわかっています。でも、俺は他の、俺と同じFMS1107を見たことがありません。もし、彼らが俺と同じような状態なら、それを確認してみたいと思って…」

「…確認してどうする?」

弁財はつっけんどんな態度で聞き返した。

「…、わかりません。
ただ、俺がいればもしかしたら相手も油断するかもしれないし、あんた達の役に立つと思うんですけど…」

弁財と秋山は顔を見合わせた。
アンドロイド討伐にアンドロイドを導入したことは過去にも記録があったような気がする。
けれども万能とは言えないアンドロイドを使用することには危険を伴うため、二人はアンドロイドを仲間に加えることなど考えたこともなかった。
妙な仲間意識は、かえって命取りになる事もある。

「…あなたの意見には、賛成しかねます…」

秋山は言いづらそうに言葉を紡いだ。

「そうですよね…」

No.00は口許に笑みを浮かべる。
弁財はプラズマガンのグリップを掴んだ。

「何かあったときは、俺を撃ってくれて構いませんよ」

今まさにそうしようかと思っていることを言われて、弁財は背中が冷えるような気分だった。
秋山が弁財の腕を掴む。

「…わかりました。こちらのメリットもありますし、あなたが少しでもおかしな事をするなら…」

「秋山…っ、」

「…俺が責任持つよ」

小声で制した弁財に、秋山が答える。

「その時は、俺があなたを壊します」

それでいいだろ。と、秋山の目がそう言っていた。

弁財は盛大な溜め息をついて煙草をくわえる。

「勝手にしろ。お前ができないときは、俺がやるまでだ…」

ややこしいことになったとは、はじめから思っていたが。

「…、No.00。それでいいですね?」

「はい、そうしてもらえると助かります…」

秋山が念を押すように言えば、No.00は幾らかほっとしたような顔をする。
作り物の分際で、そうやって共感を得るつもりなのか。

アンドロイドはこちらと共感することなど出来ない癖に。

「でも、No.00って呼びづらいな…なにかいい呼び方は…」

秋山は前を向いてバックミラー越しにNo.00を見た。

「伏見でいいです。」

No.00はそう言う。

「じゃあ、伏見さん。」

秋山はにっこりと微笑んだ。






2014.04.28

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