【秋伏】

□アンドロイドは××の夢を見るか 3
1ページ/1ページ

「仰ることは、理解できますが…」

秋山は歯切れが悪い声でそう言った。

完璧だ。とは、向かい側にどっかりと座る伏見仁希の姿を見てもよくわかる。

「我々のアンドロイド識別システムは、僅かな感情の揺れを捉えることが出来ます。人間とアンドロイドの境を無くすことは不可能では?」

臆する秋山とは違い、弁財は苛立たし気にそう言った。

「それが出来たから言ってんだよ」

仁希はソファの背凭れに寄りかかったまま、そう答える。

「では、御社のアンドロイド、FSM1107の不具合をどう説明するのですか?」

「さぁ? FSM1107は、人間との境目を完全に取り払ったアンドロイドな訳だし? 人を物のように束縛する権利があるのかよ?」

ごもっともな意見だ。
苦情は来ているものの、被害そのものはまだ把握できていない。
アンドロイド管理は、個人の裁量に任されているし、ただ単に持ち主の言うことを聞かなくなったアンドロイドが他人の手に渡るくらいなら破壊した方がましだと思っているのだろう。

アンドロイドを持っているかどうかも、この世界ではステータスの一部だ。

「一人立ちした子供の事を追っかけ回す事もねぇだろ」

ははっ、と仁希は如何にも二人を馬鹿にしたような笑いかたをする。

「……、わかりました。では、そちらのFSM1107を識別システムで調べさせていただきます」

せめてこのシステムが機能していることを確かめたい。
これが機能しなかったら、FSM1107の討伐は出だしから躓く事になる。

「ドーゾご自由に」

仁希はふんぞり返ったままそう言った。

後ろに立っていたFSM1107が気乗りしない表情で前に出る。

「そこへ、」

仁希の隣に座るように促し、弁財がアタッシュケースに入れていたアンドロイド識別システムを起動させる。

秋山はそれを黙ってみていた。

「…では、幾つかの質問をします」

カメラがFSM1107を認識したところで、弁財はマニュアルにある質問を口に出した。

「少年の集団が集まって、子犬にエアガンを撃っています」

「……」

FMS1107の表情は変わらない。

「子犬は逃げようとしましたが、一人の少年がその体を持ち上げて遠くへと投げ飛ばしました」

システムの数値が上がる。

「子犬は川に落ちて、流されていきます」

「…何でそんなことするんですか?」

答えたFMS1107は不快感を表すような感情の色を示した。

「では、質問を変えます」

「はい、」

弁財は一度システムを切り替える。

「この世に絶滅したとされる鳥が、偶然発見されました。しかし、それを発見した男はその事を知らずに、その鳥を鍋にして食べてしまいました」

FMS1107の反応が僅かに振れる。

「…男は罪を摘発され、処刑されてしまいました」

「……、」

不快感を表す数値が振り切れる。

「……ご協力ありがとうございます」

弁財は何か言いたそうな顔をしながら識別システムの電源を落とした。

「ご所望のデータは取れたのか?」

仁希は余裕の表情だった。

「生憎ですが」

弁財は苛立ちを押さえ込んだ声でそう答える。

「ですが依頼を受けたからには、こちらもそのままにしておくことはできませんので。新たに識別システムを作る際には是非ともご協力いただきたいものです」

弁財は捲し立てるようにそういうと、隣に座っていた秋山に目配せする。

「いくらでも協力してやるよ」

立ち去ろうとする二人に、ヒラヒラと手を振りながら仁希がそう言った。

「気に食わない男だな」

「変わり者だと言う話は聞いてたけどな…」

秋山はため息をついた。

「けど、理解できないな」

弁財は先程の結果を思い出して眉を潜める。

「あれは完全に人間と変わらない数値だぜ? まさか本物の人間とか言うんじゃないだろうな…?」

「…伏見仁希が嘘をついてるってことか…?」

「その可能性が無いとは言い切れないだろ…?」

確かに。

「でも何でそんなこと…。宗像さんのところで見たFSM1107はさっきのNo.00と同じ顔をしてたけどな…」

「…、No.03を識別システムにかけてみるか?」

「そうだな、No.03がアンドロイドと識別されれば、No.00は人間ってことになるな…」

それしかない。
秋山と弁財はホバーカーに乗り込んだ。
エンジンを掛けて出発しようとしていたところへ、人影が走ってくる。

「ちょっと待ってください!」

ホバーカーの風圧に髪を押さえながらそう言ったのは、FSM1107だった。

「…あんたはNo.00か?」

アンドロイドを外見だけで判断するのはむずかしい。
服装を見れば先程のNo.00と同じように見えるのだが。

「そうです。俺も一緒に連れていってくれませんか?」

No.00は少しばかり焦ったような表情でそう言った。

「何故だ?」

ハンドルを握る弁財は訝しげな表情だ。

「…、あんた達の言う識別システムだけど、それが本当に機能しているって証明できるようになりたいんだろ?」

No.00は無表情でそう言った。

「俺がアンドロイドだってわかれば、あんた達は仕事ができるようになるんだろ?」

ごもっともだ。
秋山と弁財は顔を見合わせる。

「…伏見仁希の許可はとってあるのか?」

まさか独断じゃないだろう。
アンドロイドには補助機能として、主人の命令なしに行動できないように制限を加えることもできるはずだ。

「…仁希は、俺に完璧を求めてる。俺が自由に行動することくらいわかってるはずだ。だから、焦ってる」

なにも言わずに来たのか、と秋山は建物を振り返った。

確かにプロトタイプであるNo.00がいた方がこちらにも有利かもしれない。

「…早く乗ってください」

秋山はそう言った。

「おいっ、」

慌てる弁財を尻目に、許可をもらったNo.00が後部座席に乗り込んできた。

「早く出せ!」

「ったく、お前って変なところで大胆だよな!」

弁財は苦笑しながらホバーカーを発進させる。

ふわりと浮き上がった機体は逃げるように研究所から飛び去った。





2014.04.26

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ