【秋伏】
□アンドロイドは××の夢をみるか
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地球は温暖化により陸地を大幅に減らし、更に深刻な砂漠化によって増え続けた人類の生活を賄うには手狭になってしまった。
先進国の民はこぞって火星へと移住し、残された者は少ない資源を漁るように生活する毎日。
経済は破綻して、無数に出来た派閥が日々衝突を繰り返す。
少なくなった人類は、毎日のように土地を巡った争いを続けていた。
そんな中で、戦争の道具として発展したアンドロイドと呼ばれる人形ロボットは、いつかの戦争で地中に埋められた地雷と同じく世界中に散らばったままだった。
アンドロイドはほぼ人と変わらぬ見た目であるため見分けるのは困難である。
その上彼等は人間に成り済ますことが非常にうまかった。
しかし、彼等には致命的な欠陥がある。
それは、他者の感情を理解し共感を得ることが出来ないという事だ。
間違っているのか間違っていないのか、白か黒か。それが理解できたとしても、人が考えうる曖昧でグレーな部分への理解が圧倒的に足りない。
要らないと思えば棄てるのとおなじように、人を殺すこともあり得るのだ。
FSM1107 プロトタイプ No.00
それが彼の正式名称だった。
便宜上彼に与えられた名前は、伏見猿比古。
伏見仁希が開発して、先の戦争にて多いに活躍したアンドロイドの中でも、一際仁希が手を掛けて作ったのがFSM1107というアンドロイドだった。
FSM1107は戦後に改良が施され、人類が減った今、人々の生活の中で活用されている。
使用人として火星に渡った者が大半だが、地球に残って派閥争いに使われている者もいる。勿論、愛玩目的も然りだ。
その中で、猿比古はプロトタイプということもあってか、仁希が常に傍に置いているアンドロイドだった。
『お前には最高のメンテナンスをしてやってんだよ』
仁希はそんなことを言うけれど、猿比古にとってはそれが苦痛だった。
常に最高の最良を求められる。
結果が悪ければ、すぐにメンテナンスを繰り返されるから。
頭の中がぐちゃぐちゃにされるような感覚に、いつも気が狂いそうだった。
それでも、他に何の目的のない猿比古は理解できない感情をもて余したまま、【日本アンドロイド技術研究所】の敷地内で生活していた。
FSM1107の暴走についての報告が多々上がるようになった頃、一人のバウンティハンターが研究所を訪れた。
FSM1107は優秀な機体だったが、何らかの原因で主人のいうことを聞かなくなって脱走する者が多くなったらしい。
万能をうたっているこの研究所からしてみれば手痛い失態である。
アンドロイド開発の天才でありながら、職務怠慢もやりたい放題の仁希に責任が問われる。
「知らねぇよ」
仁希が報告の結果を聞きに来たバウンティハンターと向かい合わせに座って話しているのを、猿比古は後ろに立ったままぼんやりと聞いていた。
「メンテナンスならいつでも請け負うぜ? ただし、そいつらを連れて来れるならな」
下品な笑い声を上げながら仁希がそう言う。
「定期メンテの通知くらい受け取ってんだろ? 金持ちの癖にケチってんのが悪いんじゃねえの?」
確かに仁希の言うことは正しい。
バウンティハンターは何も言えなくなる。
「それにあんた方の言うアンドロイド識別システムの話だけどな、FSM1107シリーズには通用しないぜ?」
さぁ、どうする?
アンドロイドか人間か。
それを見分けるのは通常では困難だ。
妙な言い掛かりは人権問題にも発展するだろう。
下手をすればその派閥を敵に回すことになる。
「試しにやってみたっていいぜ? そこのは、FSM1107のプロトタイプだ」
そう言って背後を指差した仁希に誘導されたバウンティハンターが猿比古をみた。
猿比古はやれやれとため息をつく。
ここでアンドロイドだと識別されるようなへまをしたら、またきっとメンテナンスをさせるんだろうなと要らぬことばかりが頭に浮かんだ。
バウンティハンターの名前は、秋山氷杜というらしい。
2014.04.24