【猿美】

□Voiceless Crying
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音が何も聞こえなくなった。
声もでなくなった。
原因不明と言われた。


その知らせを聞いて、俺は急いで病院へ向かった。

息を切らせて病室のドアを開けると、アイツはベッドの上に座ってぼんやりと外を眺めていた。

”      “

呼んでみる。
けれどもアイツは全く反応しない。

あぁ、本当に、本当なんだ…。

ヒヤリと冷たいものが胸に降り積もっていく。

”      “

もう一度呼んでみた。

やっぱりダメだった。

近寄って、肩を叩くと、猿比古は酷く驚いたような顔をして俺を見た。

“     ”

大丈夫か、と言ってみた。
猿比古は苛立った顔をして舌打ちをする。
サイドテーブルにおいてあったメモ帳を乱暴に引っ付かんで、

『笑いに来たのか?』

いちいちムカつくやつだ。

猿比古の手からメモ帳を引ったくって、俺はこう返した。

『うるせぇくそざる!』

メモ帳を受け取った猿比古は、

『汚え字だな。漢字も書けないのかよ美咲』

と返してくる。

『てめぇいいかげんにしろよ、人が心配してやってるのに!』

『頼んでないだろ?』

段々イライラが募ってくる。

それなのに、この部屋は静かだった。

『あぁそうかよ、お前はいつもそうだなサルヒコ!』

『美咲、俺の名前くらい漢字で書けよ』

そんなことを言われても猿比古の名前なんて何度も呼んでいるのに、そういえば書いたことなんて無かったなと思った。

書いた名前を猿比古に見せると、苦笑された。

『手偏じゃねぇよ』

そう書かれた言葉の脇に正しい字がでかでかと書いてある。

何がさせたいんだよてめぇは。

『わかったけどなぁ、人のあげあしとって楽しいかよ!猿比古』

猿比古の字をならって書いて、これ見よがしにそれを渡してやる。

猿比古は、しばらくうつ向いてそれを見ていた。

ぽたり、と紙に滴が落ちる。

『あぁ、楽しいよ。悪いか、美咲』

猿比古は、うつむいたままそのメモ帳をつきだしてきた。

肩が震えていた。

お前が声を出さすに泣くから、メモ帳の字が滲んで見えねぇよ。












お前とまた会話出来た事が、死ぬほど楽しいよ、美咲。





2014.04.21

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