頂き物

□プレゼント
1ページ/2ページ



闇に沈みきれぬ夜の道をひたすら向かう、彼女の家。
心は急くが、歩みはゆるりと。
見えてくる屋根、点る明かり、ひとつ跳ねる胸。

汗を掻いてないか確認しながら鳴らすインターフォン。
音が終わらぬうちに開くドアは、彼女が待ちわびてくれた証。また胸が鳴る。

「いらっしゃいませ!黒崎くん!!」

迎えてくれた井上の笑顔はいつもと同じ、いやそれ以上。

「あ、ああ・・・」

その眩しさに気押された返事しか出来ない俺。
促されるままに上がりこむ柔らかな空間。閉まるドア。


今日は、俺の。
彼女と二人きりで過ごす初めての誕生日。



<プレゼント>



少し遅くなった詫びを言えば、大丈夫お陰で準備万端になったし、と屈託なく笑う井上。
テーブルの上には綺麗なグラスと、小さな皿とフォーク。
今ケーキ持ってくるからね、と小走気味になる彼女。そのスカートの小さな翻りにどきりとする。


『ねぇ黒崎くん?何か欲しいものある?』
数日前のお前の質問に、俺は珍しく正直に答えちまった。
なあ、井上?
あの時の返事は・・・本当、なんだよな?そう約束、したんだよな?


井上はうれしそうに俺のケーキの上に蝋燭を灯す。
「さあ、願い事を言ってから吹き消して下さい〜!」
「って!ンなこと言うのかよ!?」
「ええっ?言う方が叶うんだよ?だからどうぞー!?」
「・・・」
俺は小さい声で’今日が最高の日になるように’と言って、蝋燭を吹き消した。
「お誕生日おめでとう、黒崎くん!!」
手をパチパチパチっと叩いてにっこりする井上。

お前・・・俺が言った意味、ちゃんと分かってくれてる、のか??
イヤ・・・た、多分聞こえてねぇんだよな・・・うん・・・


ケーキを喰いながら、井上に聞かれるままに家での誕生会のことを話した。
井上は何故か俺の家の話が好きだ。
「本当に黒崎くん家は素敵だねぇ」
なんてキラキラする目が見たくて、つい色々話しちまう。
・・・ほんの少しの罪悪感に目を瞑りながらも。

今日だって、本当なら最初からお前と二人で過ごしたかったってのに。
『だめだよ黒崎くん、遊子ちゃんと夏梨ちゃんが悲しむよ!?』
ってお前が言うから、仕方なくこういう予定にしたんだぜ?
『ダチが誕生日祝いしてくれるっていうから、出かけてくる』
なんて家族に言い訳しながら。
こんな・・・夜に会う、予定に・・・

期待しちまってもしょうがねぇこの状況、そしてあの時の約束。
なのに目の前のお前はいつもと変わらず、いやいつもよりハイテンションなぐれぇ。
あの約束は、ひょっとして俺の都合のいい夢だったんじゃねぇかと不安になる。


それでもそうは言い出せねぇ俺に、皿を片付けて戻って来た井上が言う。
「あのね、これ・・・」
くつろいでて、という言葉に甘えて床に座っていた俺の、ほんの50センチ隣。
座り込んだ彼女の手には、綺麗な包装紙に包まれリボンをかけられたもの。
「俺に?」
「うん・・・お誕生日プレゼント、です」



俺の心の中にはうれしさと同時に、極々小さくでも深い落胆。
「・・・ありがと、な?」
礼を言って受け取って、開けてもいいかと目で尋ねる。
頷く彼女の前で解くリボン。包装紙。

「へえ・・・」
「ど、どうかな?」
「よく分かったな、俺がこれ気になってたの」
「よかった〜!あたしの勘、冴え渡ってましたな?」
「勘かよ!?」

俺の突っ込みにいつもなら『えへへ』なんて照れ笑いするのに、何でか下を向いてもじもじと床に字を書いてる井上。
「?なんだ?」
「・・・そ、それでね・・・あのね・・・勘じゃない方のは・・・」
「あ??」
井上の声が小さすぎて、よく聞こえなくて聞き返す。
「あ、ううん!?な、なんでも・・・」


ごくり、と唾を飲んでしまった。
だってよ。
顔を上げた井上の目は潤んで、頬は上気して。


「なんか・・・他にあるんじゃ、ねぇか?」

俺の言葉にぴくり、と動く細い肩。
ふんわりした服1枚に包まれた優しい身体は痛々しい程魅力的だが、俺は井上の言葉を待った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ