頂き物

□この胸いっぱいの愛を
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空は快晴。
雲一つない、青。

思い出すのは大切な人。
あの人のようで。あの人の心のようで。


そら。空。 昊。


お兄ちゃん。


大丈夫。私は今日も笑ってるよ、お兄ちゃん。

寂しいなんて言わないよ。




【この胸いっぱいの愛を】





「たっつきちゃーん!おはよー!!」



曇天。

そんな言葉が浮かぶ、重苦しい空模様。

重たい雲を切り裂くぐらい元気な声が響く。

「おはよ、織姫。今日は一段と元気だね」
「何を言いますか!私は毎日元気ですぞ!それに今日のお弁当の餡子は高級十勝産の・・」

さも得意げに、鞄の中に手を突っ込んで、今にも現物を出してみせようとする。
たつきはその手を慌てて止めた。

「ハイハイ。朝からお昼の話しないの」
「お昼の話してたらお腹空いてきたなぁ・・・」
「早っ」
「キャー!!ヒメのそういうところ大好きー!!」
「あ、千鶴ちゃん。おはようっ」
「おはよう、ヒメっ。ヒメ見てたら私もお腹空いてきた・・・ゴフゥ!!」
「アンタのは意味が違うだろうが!!」
「フ・・今日もナイスな突っ込みね、たつき・・・」
「突きだっつーの!」
「そんなに変わらないでしょ〜」

と何故か鼻歌混じりで呟きながら、千鶴は自席に向かっていく。
その背を見送りながら、たつきは小声で織姫に訊ねた。


「織姫、明日・・・」
「うん」

たつきの言葉を最後まで聞かずに1つ頷く。遮ったわけではない。全部聞かずとも、たつきが何を言おうとしているのか、わかっていた。

「私も行くよ」
「だ、大丈夫だよっ。たつきちゃん」
「でも・・・」
「いっのうえさーん!!」

今度はこれまた空模様に似付かわしくない陽気な声がたつきの言葉を遮る。飛び付かんばかりの勢いで駆け寄ってくる人物に、織姫は思わず一歩退く。

「うるさいですよ。浅野さん」
「えぇっ!?何故に敬語!?まだ名前しか呼んでないのに!!まだ用件言ってないのに!!」
「おはよう。井上さん。有沢さん」
「無視いやーっ!!」
「あ、おはよう。小島くん」
「おっす」
「冷たいっ!氷のように冷たいぞぉー水色っ!!」
「ゴミのように邪魔ですよー浅野さん」
「水色様ー!!」

テンポ良く進む二人の会話らしきものに、織姫はどこか安心感を覚えた。

「うるさいなぁ。あれ?一護は?」
「今日はまだ来てないみたい」
「まーた朝から喧嘩でもしてんじゃないって、痛っ」
「してねぇよ」
「おはよう、遅かったね、一護」
「はよ。朝から親父に掴まってな」
「おはよう、黒崎くん!」
「おう、はよ。井上」
「で?浅野の用は何なわけ?」
「よくぞ聞いてくれましたー!!あのですねぇ・・」
「次移動だから手短に」
「酷っ」
「明日、みんなで遊びに行かないかって。貰い物の遊園地の券がたくさんあるんだ」

水色が千鶴達に視線を向ける。それに気付いたのか、千鶴達も一護達の輪に近寄ってくる。

「ずるいぞぉ、水色っ。俺がお誘いしたかったのにー!!」
「ハイハイ、すみません」
「みんなって?」
「井上さん達と僕と啓吾とチャドと石田くんと・・あと、一護かな」
「あ?俺もかよ?」
「え?行かないの一護」
「いや、俺は別に・・・」
「いっちぐぉぉぉーい!お前最近付き合い悪いぞ!行こうぜ〜。なぁ、行こうぜ〜ゴバァっ!!」
「まとわりつくな、鬱陶しいっ」

一護の拳が啓吾の頬にヒットする。しかし啓吾は何事も無かったかのようにチャドへと俊敏に歩み寄る。


「な〜チャドは行くよな〜?」
「・・ム・・」
「どっち!?」
「大体なっ。石田を誰が誘うんだよ!」
「それは一護でしょ」
「何でだよ!?」
「僕らの中で一番仲良いでしょ?」
「良くねぇよ!!誰があんな陰険野郎と・・」
「能天気な君には言われたくないな」
「げっ、石田!」
「おはよう黒崎。今日もおめでたい髪の色で何よりだな」
「てめぇこそ、相変わらずだな」
「褒めていただき光栄だ」
「褒めてねぇ!」 「やっぱり仲良しだね!」
「「良くないっ」」
「わぁ〜息もピッタリ!これならコンビ組めるよ!黒崎くん、石田くん!」

キラキラと、音が聞こえてきそうなほど目を輝かせている織姫。手を叩いて喜ぶその様は、まるで小さな子供のようだ。これ以上反論することは、そんな子供の夢を壊すような行為に思えて、二人はもう何も言えなかった。


「じゃあ、みんな明日大丈そうだね」
「ヒメ〜!!私と二人で観覧車乗ろうね!二人で!」
「あ、ごめんね。私明日は・・・」
「え?井上さんダメなの?」
「井上さ〜んっ!!何故ですか!?も・・・もしやデデデデートですか!?いやぁ〜!!」
「えぇ!ち、違うよっ!違うけどでも・・」
「慌てるヒメも可愛い〜」
「話を乱すなっ!」
「「ゴフゥ!」」

たつきの拳骨が落ちる。二人は揃って頭を押さえた。


「明日何時集合?」
「10時くらいでいいんじゃないかな?近場だし」
「そ。じゃあ、駅前に10時ね。織姫も」
「へ?た、たつきちゃん!?」
「さ!」 たつきがパンと1つ手を叩く。 「今日1限移動教室だから行くよ」
「たたた、たつきちゃん!!」

素早く荷物を纏めて教室を後にしてしまうたつきを、慌てて追う。その織姫の声に、たつきは歩みを止めてゆっくりと振り返った。


「いいじゃない。たまには」
「え?」
「たまには、一人じゃなくたって、いいんじゃない?」
「たつきちゃん・・・」
「はいそんな顔しないー」
「・・・・・」
「晴れると良いね、明日は」
「・・・うん」

窓の外を仰ぎ、いつもと変わらぬ優しい目を見せるたつきに、織姫はただ頷くことしか出来なかった。

「ほら、荷物とっとおいで」
「うん」





「たつき」
織姫と入れ違うようにして一護がたつきに問い掛ける。
「何してんの?あんたも遅れるよ」
「いいのかよ?井上、明日何か用あるんじゃないのか?啓吾のことは気にせずに・・」
「いいんだよたまには。あの子だって、人前で笑えなくたってさ」
「おい・・」

言葉の続きを問おうとした時、ガラリと勢い良く開いたドアにその声は掻き消される。

「たつきちゃん、お待たせしました!」
「行こっか」
「うん」

たつきの隣に並び、歩を進めた織姫が、ふと振り返る。


「黒崎くん、行かないの?遅れちゃうよ?」
「いや・・」
「一護、行くよ?」
「ああ・・」
織姫に、水色に促されるまま、一護も仕方なく歩き始めた。わだかまりを残したまま。
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