銀魂へ

□思い…
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「…お前が万事屋だな」
「それがどうした。つーか今何時だと思ってんですか」
「…まぁ聞け。お前に良い仕事を持ってきてやったぜ」
「…」


時刻は丑三つ時を少し回った処だった気がする。
何処から見てもやーさんの3人組が突然尋ねてきた。

「此処で夜兎の娘一匹飼ってるって聞いたんでね」
「…ッ、知らねぇなぁ。人違いじゃないんですか?」
一人が俺の胸倉を掴んで拳を振りかざした。

「こっちは散々調べたんだよ。生意気ばっか言ってっと一発かますぞ」
「おい、止めとけ仁」

多分親玉だろうと思われる男が静かに言う。
仁と呼ばれた男が、俺を睨みつけた後乱暴に手を離す。


「話を戻す。…此処に猛毒のクスリがある。夜兎の体でも短時間でおっ死んじまう強力なクスリだ」
「期限は一週間以内だ」
「小娘を、殺せ」

親玉が強引にクスリを手渡す。

「言ってる意味が判らないんですけど。殺せ?ふざけるなよっ」

俺は手渡された白い粉を地面に叩きつけた。


「初対面の奴らの言う事は聞かねぇ主義なんだ、悪ィな」
「此処に来る依頼人は殆どが初対面だろうがよ」

…ちッ、上手くかわす方法見つけねぇと。
関わっちゃいけねぇ感じがプンプンしやがる。

「お前らみたいに柄悪い人の言う事聞くなって母ちゃんに言われてんだ。それに殺すぐらいならお前らにもできるだろォが」
「お前にしか出来ねェんだよ」
「俺らが近づくと、怪しまれるだろ」
「それに今、お前別の依頼も受けているだろ。何だっけ?確か将軍様の娘が掠われた件。犯人俺らだから。娘と娘の死体、交換だ」


…ッ
お前らが…犯人…?
何でそれを俺に言うんだ。
何で俺がアイツを…、神楽を殺さなきゃならねェんだ…!?



「…帰れ」
俺はそれしか言う事ができなかった。
「言われなくても帰るさ」
「依頼料は後払いだ」
「逃げられても困るし」
「まぁでも、゙将軍様の娘"がいる限りそれは有り得ない」
「言われてみれば。娘を取り戻せなかったら切腹だな」


男達はゲラゲラと下品な笑い声をあげる。


「頼んだぜ、万事屋さん」
親玉が馴れ馴れしく俺の肩に手を置いて、立ち去る。
他の奴らもそれに従って去って行った。


一気に脱力感と嫌悪感が襲ってきた。
俺は、一体何をしてんだ…。
傍で白い粉が、月明かりに照らされ妖しく光っていた。



「おはようございます!!二人共起きてますかぁ!!!」
いつもの新八の声を合図に脳が働き出した。
…頭が痛ぇ。
「銀さんっ。もぉ起きてるなら返事くらい…、あぁ!!またソファで寝てたんですね!?」
「毎朝毎朝煩いですよ新八君。銀さんの血圧と血糖値幾らだと思ってるんですか」
「知りませんよそんな事ッ!ていうか血糖値は関係ないじゃないですか!!」


新八は何も知らない。
…それでいいんだ。


「そういえば、神楽ちゃんはまだ寝てるんですか?」
「…知らねぇ」

『小娘を、殺せ』

男の言葉が頭を過ぎる。
くそ…俺にどうしろってんだ。

「…さんっ!銀さんッ!!」
気づけば、何度も俺を呼んだのか心配そうな顔をする新八。

「んだよ、そんなデケー声出さなくても聞こえるっつーの」
「朝ご飯食べたかどうか聞いてるんですよ!」
「…あぁ、そう。悪ィ、喰ってねぇ」

「…何かありました?」

新八から発せられる言葉。
まさか言い当てられるとは思ってなくて、無意識に体が硬直してしまう。


「図星、ですか。…銀さんさえ良ければ教えて欲しい所ですけど、楽観主義の貴方がそこまで悩むぐらいですから…。きっと僕の手には負えないんでしょう」

困ったように笑みを浮かべる新八。

「朝ご飯、作りますよ。神楽ちゃん起こして来て下さい」
「…わーった」


俺は静かに立ち上がる。
来訪者のせいで寝不足なのか、フラフラする。
新八の隣を通り過ぎる時、詫びのつもりで小さく礼を言った。
すると彼は苦笑しながら、「いつもの事ですから」と言った。



「こらぁ、今何時だと思ってるんですかァ?」
俺が押し入れを開けると、神楽の奴泣き腫らした顔で、俺を見るなりビクッと肩を震わせた。


「…私を、殺すアルか?」
「っお前何言…」
「私、昨日聞いてしまったネ」

声が、震えている。
…俺の不注意だ。

「お前、ちょっと来い」
「へ?」

俺は神楽を押し入れから引っ張り出した。
そのまま優しく抱き寄せる。

「殺さねぇよ、…殺させねぇ、絶対」
「銀ちゃ…」


神楽が何か言いかけて、言葉を飲み込んだ。
俺の腰に腕をまわす事はしなかったが、神楽は服の袖を震える小さな手で握っていた。

こんな思い、させたくなかった…。
世界が滅んでも、何とかして、お前だけには笑っていてほしかった。

「銀ちゃん」
ぽつりと、静かに俺を呼ぶ声。
「私、死んでもいいネ」
俺は反射的に小さな体をきつく抱きしめた。


「そんな事、言うなよ…。言わないでくれ…」
「でも、私が一週間以内に消えないと、銀ちゃんが辛い目にあってしまうネ…。そんなの私、嫌アル!!」
「…お前、顔洗って来い。まだ目が覚めてねぇんだろ」
「ちゃんと覚めてるネ!ねぇ銀ちゃん、銀ちゃんが楽になるなら、私死んでも…」
「それ以上そんな事言うなよっ」


俺が強く言うと、ピクッと神楽の肩がはねた。

「悪ィ、でも、何か方法がある筈だから…。死ぬとか、言わないでくれよ…」

俺の声音は、懇願に近いものになっていた。




貴方は、愛する人を殺せますか…?





→あとがき




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