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□君の隠し事
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俺は知っている。
時々彼が夜中に、そっと宿を抜け出す事を。


「…っ」

彼の気配が揺れる。
同時に布団が擦れる音と、ベッドが軋む音。
…今夜もか…。


でも、今日こそ止めてやる。



「おい」
「っ!?」


黒い影がゆっくりこちらを向いた。
彼の苦笑いが月明かりに照らされていた。


「お、おはよ、ハニー」
「おはよじゃねぇよ。何処行く気だ?」
「何処って…、トイレだけど」

嘘だろ。
顔に書いてある。


「そう、トイレね。明日の事について話したいから、早く戻ってきて」
「…はいよ」



ゼロスは少し考えて、一言返事をした。




この部屋はロビーに近い。
そのせいもあって、ロビーに設置してある電話でのゼロスの会話は筒抜けだった。

『ごめん、今日は無理んなったわ。…そんな怒んなよ…』


彼は相手を慰めていた。
くそ、誰なんだよ。


ぱたりと扉が開いて閉まった。
ゼロスはすでにいつもの表情に戻っていた。

「…ゼロス」
「ん、何?」
「お、俺さ…、お前の事好きだから」
「うん、知ってる」


ゼロスはくすりと笑った。
が、俺は満足できなかった。

「お前は…?」
「俺も、ハニーの事好きだよ」
「…じゃあ、電話の相手は誰なんだよっ!!!」


びくりと彼の肩が震えた。
一瞬複雑そうな顔をして、でもすぐに笑顔に戻った。

「ロイドくん、明日の事って?」
「ごまかすなよっ、何なんだよアイツは!?お前とどういう関係なんだよ…っ」


彼の胸を殴る。
本当は思いきりやりたかったけど、必死に抑えた。
何発も何発も、何も言わない彼に拳を当てる。
こんな気持ち、知らない。

こんな…、もやもやしたモノなんか…。



「…ハニー、気が済んだ?」


泣き崩れて彼の胸に埋まると、ゼロスは冷たくそう言った。
何故彼がそんな事を言うのか、全く判らなかった。


「俺は…っ、お前の一番には、なれねぇのかよ…」
「…」

ゼロスは黙っている。


何故?

俺の事が嫌いになったなら、ふってくれよ。
こんな、惨めな気持ち…っ要らない。
お前がふってくれるなら俺は、素直にお前の事諦めれるから。



「なぁ、お前にとっての俺って何なんだよ…っ」
「…」
「なぁ、答えろよ、ゼロスっ」


「…知らないよ」


ぽつりとゼロスは言った。
返事にびっくりした俺は反射的に彼を見たが、涙でぼやけてはっきり見えなかった。


「俺さまさ、ハニーと居るといつもの俺さまじゃなくなるんだよ。思ってもない事言ったり、とか」
「ゼロ…」
「俺さま、ハニーに何もかも持ってかれちゃったから」



俺はゼロスを抱きしめた。
彼も静かに腕を回して、俺を抱きしめてくれた。


「ゼロス…好き、大好き…」
「あ〜もう、ハニー責任取ってよ?俺さま中途半端な恋はごめんだぜ?」
「うん、ちゃんと、愛してるから」
「言うようになったねぇ。なんかぐっときたわ」



顔を見合わせて笑う。
くすぐったい笑顔だった。
俺はちゃんとゼロスを愛せてるよな…。
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