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□17.出逢い ご
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あれから、ロイドと会っていない。
私は寝る暇もない程スケジュールが沢山詰まっていたし、多分彼も…私の事なんて忘れて生活しているんだと思う。


あんなに素敵なひとだから、きっと彼女のひとりぐらいできているのだろう。

それはそれで悲しくはあったが、…私の望みでもあったし、これで良かったんだ。


「ゼロスちゃん、最近やっと笑うようになってくれたね」


色々な人に声をかけられる。
心からの笑顔ではない事を、彼らは知らない。
ロイドなら、判ってくれるのに…。



「逢いたい…逢いたいよ…っ」

ただ、それだけなのに。
芸能人なんて、嫌い。
自分なんて、嫌い。


「なら、やめればいいじゃない」
「…え?」

振りかえると、ミトスが立っていた。
何故か笑みを溢して、私に近づく彼。


「そんな半端な気持ちなら、やめちゃえばいい」
「…私そんなつもりじゃ…っ」
「好きなんでしょ?彼の事が…。…この芸能界より…」
「…っ」


否定はできない。
…事実だから。

「ゼロスは判りやすいね。…可愛い」
「さ、触らないでよ…っ」


頬に触れられた手を払うと、またも艶やかな笑みを溢す彼。

…怖い。


「あいつと出会ってから、ゼロスは変わった」
「…え?」
「前まで、嫌な事も笑って受け入れてたのに、今ははっきり『嫌だ』と断るようになった」


彼の目付きが鋭くなる。

「全部、ロイド・アーヴィングのせい…」


びくっと肩がはねる。
立ち上がった拍子に椅子が倒れた。


「あいつさえいなければ、ゼロスは僕に素直に従ういい子だったのに」
「何言って…」
「だったら、君もいなくなればいい。僕の言う事を聞かないゼロスなんて、いらない」


クスクスと笑う彼の瞳は、氷点下。
冷たい視線が、容赦なく私に叩きつけられる。

「…ねぇ、この際はっきりしようよ」


じりじりと追い詰められ、背中に硬くて冷たいものがあたる。

…もう下がれない。

私は精一杯睨んだけど、ミトスが怯むわけもなく。


「ロイドを捨てて芸能界に残るか、芸能界を捨ててロイドの所へ行くか…」

ミトスの手が、私の顔を撫でる。
ぞわぞわと不快感が身体を蝕んでいく。


「わ…、わたしは…っ」
「…」
「ロイドの事、好きなんです…っでも…、私に生きる理由を与えてくれた芸能界も、好きなんです…。皆を裏切るのは、嫌…っ」
「…ふうん。社長、聞いた?」


ばたんとドアが開き、難しい顔をしたリーガルさんが入ってきた。
ミトスは私から離れ、社長に抱きつく。

「ゼロス、合格だよね?」
「ああ。…お前は、俳優にでもなるか?」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」


ミトスがリーガルさんから離れ、くるりとこちらを向く。

「ど?びっくりした?」
「…へ?」
「上手かったでしょ、僕の演技」


がくんと力が抜けた。
思考は未だ追い付いていない。


「社長がね、ゼロスの本音を探ってたんだ。僕の質問に仮にどちらか片方を選んでいたら、社長はそうさせていた。でも、ゼロスは選べなかった」
「…」
「だから、合格」
「ロイドとやらとの、交際を認める」


リーガルさんの声が、やけにクリアに聞こえた。


「じゃあ…っ!?」
「仕事の方もきちんとしてもらう。できぬようなら、交際は認めない」
「あ、ありがとうございますっ」

リーガルさんは、ふっと笑って出ていった。
ミトスと目が合うと、彼はクスクスと笑ってみせた。


「ゼロスったら、可愛い〜」
「…な…っ」
「ほら、早くロイドとかいう人に連絡しなよ。急がないと、僕がゼロスを食べちゃうからね?」


艶やかに笑う彼は、本当に捕食者のような瞳の色を宿していた。
慌てて携帯を取り出すと、ミトスは何も言わずにふっと笑った。



「…っあ、ありがと、ミトス…っ」


部屋から出ようとした彼に話しかけると、彼は振り向かずに手を振って扉を閉めた。



電話、電話…。


私は記憶している彼の番号に電話をかけた。




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